第17話 裏

「ねぇ、これなんてどう?」


 私は葵と服を選んでいた。選んでいるのは葵がお世話になった先輩に似合いそうな服。


「うーん、それはなんか違う気がするな。」


「むぅ、さっきからそればっかり。」


 さっきから私が選んだやつは違うらしい。先輩の好みなんて分からないよ。私が似合わなそうな服をとりあえず選んだんだけど……


 私は今選んだ服をもとの位置戻して他のを探し始める。あっ、この服いいなぁ。着てみたいかも。


「これならどう?」


「……それは良いかもな。」


 つい葵にその服を見せてしまった。着るのは私じゃなくて先輩なのに。しまったって思ったけど葵は先輩にこの服が似合うと思ったらしい。


「それと後1つ位にするか。ありがとな。」


 服は1つだけじゃなくてもう何着か買うつもりらしい。その先輩が羨ましいな。私も葵に買って貰いたかった。


「先に店の前で待っててくれるか?」


「……うん。分かった。」


 私は葵にそう言われたので店の前に移動する。途端に張り付けていた笑みを消す。さっきから元気な風を装っていたけどばれてないかな?


 服を選んでいる間、何度も先輩に嫉妬した。本当なら私が買って貰うはずだったのにって。でもそう思うのは間違っていて、それを拒絶したのは私なのに。


 私は嫌な子だ。葵には葵の人間関係があるのに女の人と少し関わっただけで関わって欲しくないって思っちゃう。


 そうして考え事をしていたらお会計が終わった葵が近づいてきた。


「あ、終わったんだ。」


「悪い、待たせた。付き合わせて悪かったな。」


 葵の手には大きめの袋が握られていた。大きさ的に3着くらいかな。ただの先輩にしては多すぎだよね。きっと……


「まだ時間あるし他の場所にでも行くか?」


「うーん……今日はもう良いかな。帰ろ?」


 もう帰りたかった。葵の前で嫉妬で歪んだ顔をしたくなかったし、ベットに伏して静かに泣きたかった。


「そうだな。玲奈も疲れてるっぽいし帰るか。」


 葵が手を差し出してくる。私はその手を掴み恋人繋ぎをする。なんで、ただの幼馴染なのにこんなに優しくしてくれるのかな。


「なぁ、ここで少し休憩しないか?」


「うん、懐かしい場所だね。」


 葵とイ○ンを出て帰り道をゆっくり歩いていると葵から公園で休憩しないかと言われた。公園は私達がよく遊んでいた公園でとても懐かしく感じた。


 公園のベンチに腰掛けてしばらく無言になる。私は家に帰ってから聞くよりも今聞いた方がいいと思って聞きたいことを聞くことにした。


「ねぇ、葵。」


「……なんだ。」


「葵って、好きな人いる?」


 絶対いるはず。その相手だって服を渡す先輩に違いないよ。そうじゃなきゃあんなに服買わないもん。


「……好きな人は、いる。」


「……そっかぁ。」


 やっぱりそうだよね。葵が異性にプレゼントするなんて滅多に無いからそうに決まってるよね。


「あはは……葵ならきっと上手くいくよ。」


 私は自然と喋りだしていた。葵の方は絶対見ない。見たら目から何かが出てきそうだから。諦めきれないから。


「わ、私応援してるから。相談とかも……ちゃんとのるから。」


 声が震えてきた。目に何かが溜まってきた。でもまだ大丈夫。最後まで言いきるから。まだ溢れないで。


「だ、だから……」


「もう良いから。」


 ギュッ


 応援してる、そう言おうとしたら葵に抱きしめられた。何で、やめてよ。そんなに優しくしないでよ。


 諦められなくなっちゃうよ


「無理しないで良いからさ、嫌ならしなくても良いんだ。」


「……ぅ゛ん。」


 私は単純だった。葵にそう言われるだけで簡単にそうしてしまう。恋は盲目だっていうけど本当なんだ。


「後さ、さっき言った先輩なんかいないんだ。」


 しばらく抱きしめられてたら葵がそんなこと言ってきた。どういうことって思ったと同時に葵が説明してくれた。


 もとから私に服を買うつもりだったらしくて、私が要らないとか言ったから先輩という架空の人物をつくったらしい。選んだ服も私に似合いそうな服を選んだとのこと。


 私はそれを聞いて嬉しくなった。涙があふれでてくるけど、決して悲しいとかじゃなくて。嬉し涙だ。


「う゛ぅ……そうのばかぁ……でもうれしいよぉ……」


「ごめんな。こうでもしなきゃ受け取ってくれなそうだったから。」


 葵は悪くないのに謝ってくる。悪いのは私なのに。中途半端な気持ちで拒絶して、後から拒絶しなければ良かったなんて後悔して。


 これからは素直な気持ちでいよう。照れ隠しで反対の事を言って後悔するなんてもう嫌。それなら恥ずかしくても素直な気持ちを喋って嬉しくなりたい。


「迷惑かけたから玲奈のお願いを聞いても良いか?それをしてあげたいんだが。」


「………ほんと?」


 迷惑なんてかけてないのに……。でも、せっかくだからお願いを聞いて貰うことにした。どんなお願いにしようかな。


「本当だ。さっきの勝負で言おうとしていたお願い聞かせてくれるか?」


「うん。」


 葵には聞こえてなかったので別のお願いをして貰うこともできる。けど、私はさっきのお願いが一番して欲しかった。


 だから私はそのお願いを口にした。


「私を一日中ギュッてして?」

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