第17話 表
「ねぇ、これなんてどう?」
俺達は服屋で服を選んでいた。建前上は先輩に渡す服なのだが、実際は玲奈に渡す服だ。玲奈に合う服を探さなければ。
「うーん、それはなんか違う気がするな。」
「むぅ、さっきからそればっかり。」
玲奈が選ぶ服はどれも玲奈に似合わない物だ。だけどなぁ……玲奈に合う服を選んでまた疑われても……まだ疑われる方が良いのかな知れないな。
今の玲奈は見ていられない程だ。俺が選択を間違えたからなのだが。一応元気になった風に見えるが空元気なんだよなぁ。
早く種明かしをしたいがここでしたらまた買わせてくれない気がするので困ったものだ。というか、他に何かいい服見つからないだろうか。
「これならどう?」
「……それは良いかもな。」
玲奈が見せてきたのは手が裾で隠れそうな服だ。これとスカートを合わせれば似合いそうだ。うん、良いな、これにしよう。
「それと後1つ位にするか。ありがとな。」
実はもう1つはもう決まってる。白いワンピースにしようと思ってる。春から夏にかけて暖かくなるから丁度良いと思ったんだ。
「先に店の前で待っててくれるか?」
「……うん。分かった。」
玲奈は何だか悲しそうな感じにしていた。ワンピースとかは玲奈に見せないつもりだからしょうがないのだがそんな風にされると今の言葉を無かったことにしたくなる。
会計をする前に追加で猫耳が付いたパジャマを追加する。衝動買いしてしまったが玲奈が着ると可愛いから着て欲しい。
「ありがとうございましたぁ~。」
「よしっ。後は渡すだけか。」
無事に買うことができたが結構高かった。普通に1つ三千円とかするのかよ。母さんから軍資金貰っといて良かった。
「あ、終わったんだ。」
「悪い、待たせた。付き合わせて悪かったな。」
店の前にいる玲奈に近づくと、俺に気づいて声をかけてくる。俺は建前上付き合わせて悪いと返した。
「まだ時間あるし他の場所にでも行くか?」
「うーん……今日はもう良いかな。帰ろ?」
玲奈は疲れたらしい。といってもまだ一時間くらいしか経ってないんだけどな。まぁ、自分が着ない服を選ぶのも疲れるか。
「そうだな。玲奈も疲れてるっぽいし帰るか。」
俺は玲奈に手を差し出す。玲奈も当たり前のように握る。恋人繋ぎのしすぎで感覚がおかしくなった気がするな。
イ○ンを出てゆっくり歩いて家に向かう。会話もなくただ歩いている。いつもなら穏やかな空気なのだが今日は少し気まずい感じだ。
そのまましばらく歩いていると、懐かしい公園が見えた。昔、俺達がよく遊んでいた公園だ。
「なぁ、ここで少し休憩しないか?」
「うん、懐かしい場所だね。」
俺達は公園に入り近くのベンチに座る。渡すなら今が良いだろうか。もしくは家の前か。家の前は母さん達に見られる可能性があるな……
「ねぇ、葵。」
「……なんだ。」
「葵って、好きな人いる?」
玲奈からこんなことを聞かれるなんて思わなかった。確かにいるがここはどう答えたら良いのか分からない。
「……好きな人は、いる。」
「……そっかぁ。」
ここで玲奈のことが好きと言ったら良かったのだろうか。だか、玲奈には好きな人がいるからそんなことを言っても俺達の関係が悪化するだけだ。なので、名前は言わないが好きな人がいることだけを伝えた。
「あはは……葵ならきっと上手くいくよ。」
急にそんなことを言ってくる。なにかを諦めるような表情で。上手くいくはずがない。俺が好きな人は他の人が好きだから。
「わ、私応援してるから。相談とかも……ちゃんとのるから。」
段々と声が震えてきている。やめてくれ、そんな悲しそうな顔をしないでくれ。なんでそんな顔をするんだよ。
「だ、だから……」
「もう良いから。」
ギュッ
玲奈の泣きそうな声なんて聞きたくなかった、悲しい顔なんて見たくなかったので俺は玲奈の前に移動し抱きしめる。
「無理しないで良いからさ、嫌ならしなくても良いんだ。」
「……ぅ゛ん。」
俺の胸に顔を埋めるようにされている玲奈から小さな声が聞こえたと同時に服が少し濡れた気がした。
「後さ、さっき言った先輩なんかいないんだ。」
俺は玲奈に言い聞かせるようにして話す。先輩なんていなくて玲奈に服を買いたくて吐いた嘘だということ。服を選ぶ時も玲奈に似合うものを選んでいたこと。
「う゛ぅ……そうのばかぁ……でもうれしいよぉ……」
「ごめんな。こうでもしなきゃ受け取ってくれなそうだったから。」
今度は別の意味で服を濡らしている。正直な話、あの時の玲奈は見ていられなかったので早く種明かしをしたかったのだ。
結果として喜んで受け取ってくれるので良かったが、悲しませたりしてしまったので総合的にはあまり良くないと思える。
「迷惑かけたから玲奈のお願いを聞いても良いか?それをしてあげたいんだが。」
「………ほんと?」
俺がそう言うと玲奈は顔を上げる。俺はやっぱり玲奈のお願いを聞く方があっているかもしれないしな。
「本当だ。さっきの勝負で言おうとしていたお願い聞かせてくれるか?」
「うん。」
どんなお願いが来るのだろうか。何か買って欲しいのかもしれない。あまり関わらないでと言われるのかもしれない……さっきの玲奈からしてあり得ない気がするが。
「私を一日中ギュッてして?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます