第15話 表

「お、おい。さすがに外出るのは着替えてからな?」


 外へ出るのは良いもののさすがに身だしなみは整えたい。玲奈も今のままじゃさすがに出られないだろう。だって、パジャマだし。


「あ……ぅん。」


 玲奈はポシュッ、という感じで顔を真っ赤にして頷く。そこまで頭が回らなかったらしい。そんなに嬉しかったのか?


「お互い家で準備するか。先に準備できた方がまだの方の家に行くっていう感じでいいか?」


「うん。それで良いよ。」


 玲奈が頷き自分の家に戻っていく。さて、俺も準備しなきゃな。玲奈の隣に立てる位にはしなきゃな。




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 えーっと……服はシンプルに黒いズボンとパーカーにする。シンプルなものは人を選ばないからほとんどの人が似合う。


「服はこれで良いから次は……髪だな。」


 一番の難所な気がする。俺の髪は人よりも少し長いため暗く見えがちだ。このままでは隣を歩く玲奈の評価も下がってしまう可能性があるためワックスでいじっていく。


「………っと、こんな感じで良いか。」


 暗く見えないようにつつ派手にもしない。無難な選択をする。結果として今の俺は平凡な姿形をしている。


「こんなんで良いだろうか……不安だ。」


 いつもの姿よりはましだろうと思い玄関へ向かうがやはり不安になってしまう。どうしようもないことだからしょうがないんだけどな。


「あら?葵、何処か行くの?」


「うん?ああ、玲奈とどっかをブラブラしてくるよ。」


 下に降りて玄関へ向かおうとすると母さんに呼び止められた。


「玲奈ちゃんと?デートでもするの?」


「はぁ?何言ってんだよ。そんなわけないだろ?」


 母さんは何を根拠にそんなことを言ってるんだろうか。今時男女でお出掛けなんて普通になってきてると言うのに。それに、


「玲奈には別に好きな人がいるしな。」


「はぁ?あんたこそ何言ってるのかしら?」


 俺が事実を言うと今度は逆に母さんが不思議がる。そんなにおかしなことだったか?玲奈にも好きな人くらいできるだろうに。


「まぁ、いいわ。その話は夜にでも聞こうかしら。あ、ちょっと待ってなさい。」


「……絶対聞くまで離さないやつじゃん。」


 最悪だ。何が好きで自分の親に失恋した話をしなきゃならんのだ。まぁでも、話した方がスッキリして気持ちの整理もできそうだから良いか。


 そんなことを考えたいたら母さんが諭吉さんを持って戻ってきた。


「はいこれ。これで玲奈ちゃんに何か買ってあげたりしなさい。」


「金なら持ってるから別に要らないんだけど……」


 普段から貰ってるお小遣いも使わないから貯まってるし別に良いんだけどな。


「いいから貰っときなさい。その代わり夜は逃がさないわよ?」


「……そういうことかよ。分かったよ。」


 夜は逃げようと思っていたがそうは行かないらしい。どうせ受け取るまで逃がさないと思うので素直に受け取る。


「はぁ……じゃ、行ってきます。」


「行ってらっしゃい。頑張るのよ。」


 返事をしないでドアを閉める。一体何に頑張ればいいんだよ。玲奈を喜ばせることなら頑張るが。


 外へ出たら丁度玲奈も外へ出たところらしい。息ピッタリで驚くな。


「タイミングバッチリだ。」


「ふふっ、そうだね。やっぱり私達って気が合うんだね。」


 急にそんなことを言わないで欲しい。諦められずに燻った感情がまた燃え出してしまうから。


「……早く行くぞ。」


 ギュッ


「あっ……ちょっと待ってよぉ。」


 照れているのを悟らせないために手を繋いで玲奈を急かす。玲奈は惚けた声をしていたが嬉しそうにして俺に隣へと移動した。


「……その、なんだ。その服、とても玲奈に似合ってる。滅茶苦茶可愛いと思う。」


「……っ!ふ、ふーん、あ、ありがとっ。」


 ただ歩いていては詰まらないと思ったので少し恥ずかしいが玲奈の服装を誉める。デートじゃなくても男女のお出掛けでこれは大事だ。


 玲奈は俺と同じシンプルな服装でデニムにパーカーだった。誰でも似合いそうな服装なのに素材がいい玲奈が着るととても似合うんだよな。


 正直に言って抱きしめたいくらい可愛かった。付き合っていたのなら周りにこれが俺の彼女だと見せつけるようにしたかった。


「……その……葵もかっこいいよ?」


「そ、そうか。ありがとな。」


 玲奈が照れながら誉めてくれるのでこっちも照れてしまう。それに何だか……ペアルックみたいだ。


「ペアルックみたい……」


 玲奈もそう思ったのか小声でそう呟く。玲奈を方を見ると丁度玲奈もこっちを見たらしく、バッチリ目があった。


 お互い同じことを思ったことに気づいたのかどちらともなく目をそらす。


「……早く行くか。」


「……そ、そうだね。」


 ギュッ


 お互い照れながらもまた歩き出した。繋いでいる手はいつの間にか恋人繋ぎになっていた。

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