第14話 裏

 うぅ、恥ずかしかったなぁ。


 おばさんに抱きしめられて頭を撫でられていたところを見られた。恥ずかしかったんだけど朝ごはんを食べないといけないから仕方なく1階に降りたんだ。


 そしたら案の定おばさんはニヤニヤしてた。しかも私と葵の席を隣同士にしてきた。いつもは私が1人側でおばさんと葵が隣り合わせなのに、今日はおばさんが1人側に座ってた。


 そのせいでご飯を食べてるときも気まずいし、おばさんはいつまでもニヤニヤしてるしで大変だった。


 その後は部屋に戻ったんだけど、戻っても待ってたのは気まずい空気なんだよね。お互いやってしまった感があるから話しづらいし、何より恥ずかしいのかも。


 でも、あのコンボは凄かったなぁ。抱きしめられて頭を撫でられるのがこんなに幸せだったなんて。


 私はさっきの幸せを思い出していた。


「な、なぁ、玲奈。」


「……っ!ど、どうしたの?」


 ぽけーってしてたとこに葵が声を掛けてきたのでビックリしちゃった。そのせいなのかな、また少し気まずくなった気がする。


「休日なのに俺といて良いのか?その……友達と遊んだりとかないのか?」


 むぅ、そんなこと言っちゃってさ。元々、葵が泊まれって言ったからなのに。しかも抱きしめてくるしさぁ。それに、


「うーん……ない、かな。翠ちゃん今日用事あるらしいから。」


「……そうか。」


 そう、翠ちゃんは用事があるらしいの。なんでも、とても大事らしい。後、相手が来なかったら今度あったときメチャクチャにするんだって。何をメチャクチャにするんだろう?


 というか、葵がなんだかがっかりしたような気がした。私と離れてこの気まずい空気を何とかしたかったのかな?


「逆に葵はどうなの?友達と遊んだりとか用事ないの?」


「あ、ああ……俺か?」


 葵に用事があればこの空気もなんとかできるんだけど、多分ないと思う。だって、いつも教室で話してる相手は桔梗君だけだもん。


「俺もないな。」


「へ、へぇ。そ、そうなんだ。」


 案の定無かった。そ、そっかぁ。葵って友達少ないのかぁ。あ、私も人のこと言えないかも。気の許せる友達なんて翠ちゃんくらいしかいないし。


 そんなことを考えていたら、無性に手が繋ぎたくなってきた。全く関係ない話だったのに何でだろう?葵はまだ気まずそうにしてる。


 ツンツン、ツンツン


 ピクッ!


「っ!」


 手が繋ぎたいから試しに手をツンツンしてみると葵は面白いくらいに反応してくれた。ふふっ、なんだか楽しい。でも、これで繋いでくれなかったのは残念。後少し恥ずかしい。


 ツンツン


「……っ!」


 ムキュッ


「……うぅ。」


 もう1回ツンツンしても反応は変わらなかったから裾を掴んでみた。早く繋いでほしいのに。自分から言うのも恥ずかしいから葵からしてほしいのに。上手くいかなくて唸っちゃった。


 クイクイ


「ど、どうしたんだ。」


 掴んだ裾を引っ張るとようやく声を出して反応してくれた。どうしたなんて言ってくるけど私の行動で大体分かってる気がする。


「え、えと。手繋ぎたいなって。」


 恥ずかしいけど頑張って伝えてみた、声小さくなっちゃったけど。これで繋いでくれるよね?


「すまん。もう1回言ってくれるか?聞こえなかったんだ。」


 葵は聞こえなかったらしい。そうなると私はもう1回あの恥ずかしい要求をしなきゃいけないの?


「だ、だからっ。て、手を繋いでほし……っ!」


 ギュッ


 2回目は恥ずかしくて言葉が少しだけ詰まっちゃった。なんとか言い切ろうとしてたのにその前に手を握られた。


「ごめんな。最初から聞こえてたんだ。」


「っ!もぉ~!そうのばぁーか!」


 葵は聞こえない振りをしてたらしい。ずるい、ずるいずるい。私は腹いせに葵を思いっきり罵った。


 手を繋いだのは良いけどまだなんか足りない気がする。この前は手を絡めて恋人繋ぎをしてた。でも今はただ手を繋いでるだけ。


 恋人繋ぎがしたい。葵は確かこの前した時驚いてたよね。私は幸せだし葵を驚かせられる。これって一石二鳥だよね。


 ゴソゴソ、ギュッ


「あ、お、おいっ。」


「ふんっ!葵なんて知らないっ。」


 ふふっ、予想通り葵は驚いてる。私は知らない振りをして感触を楽しむ。やっぱりこっちの方が良いかも。


「好きじゃないやつにやっていいやつかこれ?」


「……?なにか言った?」


 葵が小さい声で何か言ったけど小さすぎて聞こえなかった。何て言ったんだろう。


「何も言ってないよ。それより、暇だから外にでも出てブラブラしないか?」


 葵と外に出てブラブラ。これってもしかしてチャンス?クラスメイトとかに見られたら既成事実作れちゃう!?したい、今すぐにしたい。


「す、するっ!早く行こっ!」


 葵の手を引っ張って急かす。早く行かなきゃどんどん時間がなくなっちゃう。そうなったらクラスメイトに見つかる可能性も減っちゃう。何とかして見つけてもらわなきゃ。


「分かったから。そんなに引っ張らないでくれ。」


 葵はそんなことを言ってくるけど手を離すつもりはないみたい。なんだかんだ楽しみにしてるらしい。


 休日に葵と2人で外へ出るのは久しぶりだなこともあって、私は既成事実云々の前にとても楽しみだった。


 何処に行こうかな。昔遊んだ公園でも良いかもしれない。その他にもただ歩き回ったりとかウィンドウショッピングとかしたりしても良いかもしれない。


 私はそんなことを考えながら葵と玄関へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る