変化していく関係

第13話 表

 いつもと違う部屋にいた。俺の部屋でもないし玲奈の部屋でもない。ここはどこなんだ。だけど、不思議とこの部屋で2人で暮らしているということは分かっていた。


『おはよう、葵。』


 玲奈が声をかけてきた。しかし、何だろう。玲奈の姿がいつもより大人に見える。例えば3、4年後の玲奈みたいな感じ。


『あぁ、おはよう。今日は早起きだったな。』


 おはよう、とだけ返そうとしたつもりが声が全くでなかった。その変わりに口が勝手に動いていた。


『むぅ、いじわる。いつもいつも早起きできないのは葵のせいなのにぃ。』


『ははっ、悪かった。だけど、玲奈も悪いからな?あんな可愛いことしてくれたらこっちだって……なぁ?』


 口が勝手に動く、見覚えのない会話。俺はここが夢の中だと分かった。そして今俺が見ているのは数年先の玲奈で俺は数年先の俺なんだろう。


『なぁ?……じゃないから!朝起きたら葵がいなくて寂しいの!』


『それは始めて聞いたなぁ。そっか、寂しかったのか。』


 なかなかに信じられない光景だ。夢の通りに行くと俺は玲奈と付き合っているんだろう。現実じゃあ玲奈は俺じゃない別の好きな人がいるからな。


『玲奈、ちょっとこっち来てくれないか?』


『むむ、私まだ怒ってるんだからね!』


 そう言いながらも俺に近づいてくる玲奈。お互いが信頼しあっている証拠だろう。少し、いやかなり羨ましいな。


 ギュッ


『あっ……』


『これで機嫌直してくれないか?』


 近づいてきた玲奈を抱きしめる俺。玲奈は俺になされるがままにされている。もう慣れてるんだろう。


『……頭も撫でて。』


『ははっ。注文が多いお嬢様だ。そんなとこも可愛いけどな。』


 なでなで、なでなで


『むぅ……そうやってすぐに可愛いとか言う。』


 追加注文した玲奈にしっかり答えている俺。可愛いと言われた玲奈はどこか満足げだ。


「……ぅ……て」


『実際可愛いからな。でも、可愛いお嬢様を見ていたら食べたくなってきちゃったなぁ。』


『だーめ。朝からできないよ。』


 言ったい何の話をしているのかと思ったらすぐに分かった。夢の中の俺は案外肉食系らしい。さっきの2人の会話も昨日の夜、俺が玲奈を食べ尽くしたんだろう。


「……う……きて」


『そんなこと言わずに……な?』


『ダメなものはだ……んっ!?』


 駄目と言おうとした玲奈に思いっきりキスをする俺。現実の俺じゃ考えられない。玲奈も突然で驚いている。


『……んっ………ちゅぱ………はぁ…んちゅ…………』


『……ぷはっ。なぁ、どうしても駄目か?』


『………だめじゃなぃ。』


 とても長いキスをした後、俺は玲奈にもう一度聞く。玲奈はキスで蕩けた顔をしている。今はもうすっかりと乗り気だ。


『リビングじゃあれだから寝室行こうか。』


『………ぅん……きゃあ!?』


 俺は玲奈を持ち上げた。お姫様だっこと言うやつだ。その状態のまま2人で奥の寝室に向かっていく。


 寝室に入った後、2人はお互いの服をはだけさせて。そして………


「そう、起きて。」




 ____________________________________________





 夢の中で情事をする直前俺は目を覚ました。危なかった。しかし、起きる前誰かの声が聞こえたような……


「あ、起きた。おはよう葵。」


 ここは俺の部屋なはずだ。それなのに玲奈の声が聞こえる。夢の中でも見て、更に欲求不満なのか遂に幻聴まで聞こえてきたのかもしれない。


 はぁ、夢の中の玲奈、美人になっていたな。今の玲奈も可愛いけど未来の玲奈は綺麗だった。


「むっ、無視するなんてひどいよぉ。」


「………え?玲奈?」


 更に玲奈の声が聞こえたのでそちらをみると玲奈がいた。なんで?と思ったものの、そういえば昨日抱きしめあって寝たんだった。


「そうだよぉ。なんだと思ってたの?」


「悪い、寝ぼけててな。それより、おはよう。」


 おはよう、と言ってから気付いたんだが、体勢がまだ昨日の状態のままだった。つまり俺は玲奈を今も抱きしめている。


 そういえば、夢の中ではその後頭を撫でてキスをして、その後……


 夢の中で情事に突入したことを思い出して急に恥ずかしくなり急いで離れた。ここで夢と同じことをしたくない。するつもりなんてないけど。


「そ、葵?ど、どうしたの?」


 俺が急に離れたからなのか少し不安そうな顔で玲奈が聞いてくる。またやってしまった。玲奈はなにも悪くないのに。


「い、いや。なんでもないんだ。」


「何もないなら何で急に離れたの?私、何か嫌になることしちゃった?」


 確かにそうだ。何もないならこんな行動なんてしない。玲奈は自分に原因があると思ったらしく悲しそうにしている。


「ち、違う!玲奈はないもしていない。ただ、夢を見てな……」


「夢?」


「ああ……」


 俺は不思議がっている玲奈に夢の内容を教えた。勿論、情事に突入する部分は抜いてだ。流石に言うのは恥ずかしい。




「んふ、んふふふふ。そうだったんだぁ。私が葵と同棲。えへへへへ。」


 夢の内容を伝えた後、玲奈の顔はとてもふにゃふにゃになっていた。一体何を想像したらそうなるんだろう。


 なんだかめちゃくちゃドキドキするし、ふにゃふにゃになっている玲奈を見ると昨日決心したものが早くも揺らぎそうになっていた。くそっ我慢だ我慢。そう思うものの身体が勝手に動いていく。そして、


 ギュッ


「ふゃっ!?」


 いつの間にかまた玲奈を抱きしめていた。いつの間に!?しかし、1度抱きしめてしまったらもう離したくなくなる。


「んふぅ~。あったか~い。」


『……頭も撫でて。』


 なぜだかふにゃふにゃになっている玲奈と夢の中の玲奈が重なって見えた。夢の中の玲奈に従って玲奈の頭に手を伸ばす。


 なでなで、なでなで


「……!?……きもちー。」


 抱きしめるのと頭を撫でるコンボをとても良いようだ。玲奈は俺の腕の中で溶けてしまっている。


 俺はそんな玲奈に止められなくなってしばらくの間そうしていた。


 朝食の準備が出来たと呼びにきた母さんにこっそり見られてしまい2人して顔を赤くしてしまった。

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