第12話 表
「そいつと付き合うのか?」
俺は玲奈にそう聞く。あのイケメンの告白の結果が知りたい。でも、知りたいのは良い結果ではなく悪い結果だ。それを知って玲奈はまだ付き合うことはないという安心が欲しい。
「え、えと……付き合わないよ?」
付き合わない。そう言われた瞬間、俺は歓喜した。これでまだ玲奈と一緒にいれる。そう思っていた。
「理由を聞いても良いか?」
俺がこんな馬鹿な質問をするまでは。俺はもっと安心するために玲奈が付き合わない理由を聞いた。
「そ、それはね……す、好きな人がいるの。」
「……え?」
好きな人がいる。だから付き合わない。それは喜んでいた俺を一瞬で奈落の底に落としてくるものだった。
「そ、そいつのどんなとこが好きなんだ……」
俺は無意識にそんなことを呟いていた。多分、玲奈が好きだっと思っている部分を俺がそいつよりも上回れば俺を好きになってくれると思っていたんだろう。
「ふぇっ!?そ、それはねぇ……」
玲奈は好きな人のことを聞かれるとは思っていなかったのだろう、驚いていた。そして顔を真っ赤にして考え始める。
「えと……えーっと……」
時折、「あぅ」とか「で、でもぉ」という声が聞こえてくる。前者は恥ずかしいのだろう。後者は俺がそれを聞いて他の人に喋ることを気にしてるのだろう。
「大丈夫だ。俺は玲奈の好き人の情報を他人に口外するつもりはない。」
俺は玲奈に安心して欲しくてそう言った。その後もしばらく迷っていたが、心の準備ができたらしい。
「好きなとこはねいっぱいあるんだ。まず……」
玲奈が好きな人はいつも優しくて玲奈を優先してくれるらしい。その他にも一緒にいると心地良いなど色んなことを話してくれた。
「……玲奈はそいつのことが大好きなんだな。」
「……っ!う、うん!大好きなの!」
俺がそう言うと、顔を真っ赤にして少し大きな声で言いきった。そこまで好きなのか……他のやつなんか眼中にないんだろうな。
「……そっか。その想い届くと良いな。」
「……?う、うん……」
俺は玲奈を応援しよう。玲奈とそいつが付き合えるように相談にものりたいな。それで、玲奈が付き合ったら一番に祝福したい。
そうしたいのになぜだかとても心が苦しい。俺は少しだけ抱きしめる力を強めた。玲奈もそれに気付いたんだろう。顔を上げて俺を見る。
「葵?大丈夫?」
心配してくれるのだろうか。玲奈は優しい。好きでもないやつに抱きしめられても嫌なんて言わない。それは俺が幼馴染ということもあるんだろう。
「ああ、大丈夫だ。」
「でも、なんだか苦しそうだよ?」
苦しい、確かにそうかもな。玲奈が俺を好きでいてくれたら苦しくなかったのかな。そこで俺は気付く。
「そうか……俺は……」
玲奈のことが好きだったのか
胸に貯まっていたドロドロとしたものがすとんと腑に落ちような気がした。放課後の告白で感じた2つの感情は嫉妬と独占欲ということも分かった。好きだから嫉妬もするし独占欲も湧く。
『ずっとそのままだったらあなたは後悔するかもしれないわよ?』
昨日の夜、母さんに言われたことがこんなに早く分かるなんて思ってもいなかった。確かにそうだ、俺は後悔している。もう少し早く気付くことができたら玲奈は俺のことを好きになってくれたのだろうか?
そんなことを考えて自嘲する。どうせ後の祭りで、そんなことを考えても無駄なのにな。俺と玲奈が付き合うだなんて未来はもう来ないだろう。
ギュッ
「そ、葵?」
だけど、今は、今だけは……
「今日はずっとこうしてて良いか?」
今日が終わればこの温もりから離れるからと。自分自身に言い訳する。玲奈は何て答えてくれるだろう。断られたらそれまでだ。明日からは玲奈の恋を応援しよう。
「うん……私もこうしていたい。」
玲奈は安心したような声でそう言ってくれた。さっき決心したものが既に崩れそうなくらいだった。
俺は母さんに呼ばれるまでずっと、玲奈を抱きしめていた。
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もう寝る時間だ。ご飯を食べた後、部屋に戻った俺はまた玲奈を抱きしめていた。流石に風呂に入る時は離したが、それ以外はずっと抱きしめている。
「ね、ねぇ。そろそろ寝る時間だよ?」
流石に玲奈も恥ずかしくなってきたんだろうか。それでも止めない。今日一日はこうしても良いから。玲奈も許してくれたから。
「そうだな。そろそろ寝るか。」
しかし、流石に寝なければ明日起きれない。なので俺は横になる。玲奈を抱きしめたまんまで。
「え、あれ?そ、そう?」
「今日はこのままな。玲奈も良いって言ってくれただろ?」
俺は玲奈を抱きしめたまんま寝るつもりだった。玲奈は寝るときは離すと思っていたんだろう。けど俺は玲奈の優しさに漬け込んだ。
「いった、いったけどぉ。」
「異論は認めない。今日はこうして寝たいんだ。」
めちゃくちゃ動揺していた玲奈。これもこれで可愛いな。また1つ好きな部分が増えていった。俺、玲奈から離れられんのかな。
「じゃあ、寝るか。お休み。」
「お、お休みっ。」
電気を消して目を瞑る。玲奈がいるから寝られないかもと思っていたが違ったようだ。逆に玲奈の温もりがあるお陰で寝やすくなっていた。急速に意識が落ちていく。
「うぅ~、こんな状態で寝れるわけないよぉ~」
薄れゆく意識で玲奈が何か言っていたことだけが分かった。
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