第9話 裏

「ねぇ、葵。今日も手、繋いじゃ駄目かな?」


 最近、葵と一緒に登校する時、私はこんなお願いをする。月曜から毎日だから今日でこのお願いは5回目だ。葵は毎日手を繋いでくれた。段々登校する時間がお気に入りになってきてる。


「流石に今日はやめとくか。」


「え……う、うん。分かった。」


 反射的に頷いちゃった。でも、今日はだめなのかぁ。そうだよね、いつも繋いでたら流石に嫌気が差すよね。そうこれは、仕方がないこと……


「そ、葵。早く学校いこ?」


 私は耐えきれなくなって学校へ早く行くことを促した。手を繋げられない時間なんてどうでも良いの。放課後も無理なのかな……


「そうだな。早く学校いかなきゃ遅刻するかもな。」


「うん……」


 葵もそんなことを言ってくる。まだ遅刻する時間でもないから気まずいんだろうなぁ。なんだか申し訳なくなっちゃう。


 ギュッ


 そんな時、私の手に触れるものがあった。なんだろうこれ?手……かな?誰の?そんなの一人しかいない。だって近くにはしかいないんだから。


「……ふぇ?そ、葵?」


 でも、今日は握らないって言ってたはずなのに……。あ、もしかしてこれは私の願望を写した妄想というものかな。きっとそうだ……


 ギュッギュッ


 今度は少し強く手を握られた。それのせいでで呆けていた私の意識は現実に戻される。そして強く認識する。と。


「えっ!葵!?」


「あーもう。そんな大声でいちいち言わなくて良いから。さっさと行くぞ。」


 妄想と思っていたそれは現実だった。葵は照れているのか少しだけそっぽを向いてる。なんだか上手く素直になれない子供みたいで可愛い。


「うん!えへへ……」


 にぎにぎ、にぎにぎ


「……っ!」


 今日も手を握れたことが嬉しかったので手をにぎにぎしちゃった。葵は少しびくってしたけど何も言ってこなかった。



 ____________________________________________





 もうそろそろ学校につく。今日もこんな風に手を繋げるなんて思ってもなかったから顔がにやけちゃう


「玲奈、そろそろそのしまらない顔何とかしないか?」


「そんな顔なんてしてないよぉ~」


 もうっ、失礼な。しまらない顔なんてしてないもん。私の顔のどこを見たらそうなるのか教えて欲しいくらい。


「いや、めちゃくちゃしてるぞ?かわいい顔が台無しで勿体ないんだが。」


「そ、葵。そんなこと思ってくれてたんだ。嬉しい。えへ、えへへへへ……」


 葵が、可愛いだって。私のこと可愛いだって!えへ。嬉しくてにやけが止まらないかも。この恋を自覚してから初めて直接言われた「」が嬉しくてたまらない。


「おーい、玲奈さーん。」


「んふぅ、ん?どうしたのぉ。」


 夢見心地な私に葵は声をかけてくる。今はこの幸せを享受していたい。けど話しかけられて嬉しい。どっちを優先するか悩んじゃう。


「俺の背中に張り付いてくれませんかね?」


「分かったぁ……ん?……」


 私の脳内では幸せを享受する方が勝っているけど、葵の声に身体が条件反射で動いてしまう。私の身体が勝手に動いて葵の背中にピタッと張り付く。


 ピタッと張り付いたことによって葵を強く感じることができる。これも良いかも……。あ、でも待って。こんなに近くにいると葵の匂いが……


 すんすん、すんすん


「すぅ……はぁ……葵の匂いが充満してくる。良いにおーい。すんすん……」


 葵の匂いを嗅ぐのが止まらない。私にとっての麻薬みたいだった。すごく良い匂いする。ずっと嗅いでも良いかもぉ。


 これをこのまま続けていたら、私の制服に葵の匂いがつくかな。それも良いかもしれない。葵の匂いがついたら女の子に私は葵と良い感じなんだって牽制できるかも。


 うん。これは牽制のためだから。私はそう言い訳して教室に入るまでずっと葵の背中に張り付いていた。

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