第8話 表

 夜、俺は何故放課後帰る時、胸が痛くなって、そして何に安堵したのかを考えていた。


 率直に言おう。理由は出ているんだ。理由は。でもどうしてそんな気持ちになったのかが分からない。


「はぁ、どうしたもんかな。」


 まず、玲奈が泣いていたり悲しんでいたりすると胸がいたくなる。一応他のまあまあ仲が良い女子がそうなった時も考えてみる。


「……あれぇ?」


 ない。全然痛まない。つまりこの胸の痛みは玲奈限定なのか。でも同じ異性なのに違うというのはおかしいな。


「まあいいや。次いこう。」


 次、玲奈が泣き止んでくれたことにより俺は安堵した。つまり泣いていることが気になっていて、それが無くなったから安心したのか?


「うーむ、分からねぇ。」


 考えたのは良いが、更に深みにはまってしまった。これは一人で考えても意味がないのかもしれない。


 ということで誰かに聞こうと思う。



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 プルルルル、プルルルル、ピッ


「なぁ、石晶。今良いか?」


「大丈夫だけど……なにかな?」


 とりあえず石晶と考えてみる事にした。学校では1番信頼できるからな。まあ、石晶ぐらいしか友達いないんだけどさ。


「いや、相談……というか、一緒に考えて欲しいことがあるんだが。」


「ふーん……まあ今日はそんなに忙しくもないから付き合うよ。それで?何について相談したいんだい?」


「ああ。それはな……」


 かくかくしかじか


 俺は放課後あったことを少し喋った。最初は相槌をうってくれた石晶だが、次第に少なくなっていき、最後にはしなくなった。


「……というわけなんだ。」


「……へぇ。」


「なぁ、石晶はこういう事経験したことあるか?あるんだったらどうしたら良いか教えてくれないか?」


 俺は石晶に助けを求める。石晶しか俺を救えないのだ。だって、張本人玲奈には言えないだろ?俺は石晶の返事を待った。


「……いや、僕には無理かな。」


「んなっ!」


 僕には無理。分からないとかではなく無理ときた。これは例え分かっていても教えられないということだろう。


「ど、どうしてだ!」


「葵、君は勘違いをしている。」


 俺が勘違い?何を?俺が思った感情についてか?いや、あの時は確かにそう思ったんだ。なら、勘違いではない。なら、他のなにか。それは一体……


「そういうものはね、答えを教えて貰って自覚するんじゃない。自覚するもんだよ。」


 石晶はそういった。俺のこの感情は自分で自覚するもの……だめだ、全然分からない。


「今はまだ、分からないかもね。でも、そのうち分かる時が来るはずだよ。それまでせいぜい考えることだね。それじゃ、僕は寝るね。」


「えっ。あ、おい待て……」


 プチっ


「あ、切れた。」


 石晶は俺に何か言わせる前に通話を切った。はあ、全くなんなんだよ。分かる時が来るまで考えてろって。そんなの何時来んだよ……


「はあ、まあいい。次いこう。」




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「なあ母さん。」


「なぁに?」


 次は母さんだ。母さんなら女の子の気持ちも分かるから参考になるのでは?


「一緒に考えて欲しいことがあるんだけど。」


「珍しいわね。良いわよ。久しぶりに息子との時間を楽しもうかしら。」


 かくかくしかじか


「あらぁ、そんなことがあったのね。」


 俺が母さんに放課後の事を話していると、母さんは次第にニコニコしていった。はて?何を喜んでいるのだろう。


「ふふっ、遂に少しは自覚してきたのね。でもこれはお母さんでも教えられないわ。やっぱ自分で気づかなきゃねぇ。」


「母さんもそう言う……」


 なんと返事は石晶と一緒だった。そこまでして自覚させたいのか。でも今の俺には無理なんじゃないか?


「まあでも、ヒントくらいは上げられるかしらねぇ。」


「ほんとか!?」


 ヒント。それだけでも十分かもしれない。ヒントとは一体なんだろう。


「ヒントはねぇ、葵が玲奈ちゃんをどう思ってるか考えることかしらねぇ。」


「はぁ……なんだそれ?」


 全く意味が分からない。俺が玲奈をどう思っているのかって?そんなの決まっているだろう。


「幼馴染だろ?」


 それしかないじゃないか。逆にそれ以外ないがあるっていうんだ?


「……はぁ。これは酷いわね。自覚するのにどのくらい掛かるかしら?」


「いや、これであってるだろ。」


 これで合っていなかったらおかしくないか?家も隣同士、高校まで一緒の学校、幼稚園。それがどうなったら幼馴染以外になるんだ?


「まあ、葵がそう思っているならそれで良いかもね。でも、ずっとそのままだったらあなたは後悔するかもしれないわよ?」


「……」


 後悔、するのか?だめだ、全然分からない。俺が玲奈をどう思っているか……


「今すぐに幼馴染って決めつけなくても良いんじゃない?もっとゆっくり考えてみたら?」


「……そうかもな。そうしてみる。」


 ゆっくり考えてみる、か。たまにはそういうのも必要かもな。急いで決めつけるだけじゃ駄目なんだろう。


「ありがとう母さん。参考になった。」


「そう……なら良かったわ。頑張りなさい。」


「ああ、お休み。」


 俺は自分の部屋に戻ってベットに入る。もう寝るには良い時間だ。さっさと寝よう。考えるのは明日からで良い。


 そう思ったものの、ふとした瞬間考えてしまい、寝る時間が遅くなってしまったのだった。





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 あとがき


 葵君はまだ自分の気持ちに気づいていません。一体、何時気づくんでしょうかねぇ。

 さあその頃、朝と放課後泣いてしまったあの子は?どうなっているんでしょうかねぇ……


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