第7話 裏

 やっと放課後だぁ。これから葵と手繋いで帰れる。そう思うと私は早く帰りたくてたまらなかった。


 HRが終わったので荷物を片付けすぐに葵の所に行く。


「葵。早く帰ろっ」


「……」


 手を繋いで一緒に帰ることが嬉しすぎて少し声が跳ねてしまった。いけないいけない。こんなとこ見られたら笑われちゃう。


 葵は私を非難するように見てくる。あれ?私なんも悪いことしてなくない?


 後さっきから教室が少しざわざわしてる。なんだだろ?葵はなにか聞こえたのか少し肩を落としたように見えた。疲れてるのかな?


「分かったよ。ほら、さっさと帰るぞ。」


「あ~待ってよー。」


 私が疑問に思っているとあっという間に葵は教室を出ていった。私は急いでついていく。早く帰りたいのか葵は少し早歩きだった。





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 学校を出て、2人で歩いていると葵の歩く早さが徐々に遅くなった。スピードを合わせてくれたみたい。それによって余裕が出来たので葵と話す。


「もう、恥ずかしいからって逃げなくても良かったのに。」


「別に恥ずかしかった訳じゃないんだけど。」


 そうなのかな。てっきり恥ずかしいのかと思ったんだけど。……そういえば葵は学校ではあまり目立っていなかった。


 それなのに私がちょっと大きな声で呼んだら注目しちゃうよね。それが嫌だったのかも。反省しなきゃ。


「今日1日私と葵の事で話が持ちきりだったね。」


「そうだな。お前が手を離してくれなかったからな。」


 今日の事を葵と話す。本当に大変だったかも。休み時間になると噂を聞き付けた人達がやってきて、知らない人も私に話しかけてくるんだもん。


 知らない人に一方的に話しかけられるこっちの身にもなって欲しい。休み時間は愛想笑いで過ごした。


「まあどうせ、すぐ収まるだろ。」


 葵はすぐ収まるなんて言うけどたぶんないと思う。人の噂は75日なんて言うけどあれって噂が定着する期間だと私は思う。


「別に収まんなくても良いんだけどね。本当の事なんだし。」


 私に話しかけてくる男の人もいなくなるし。胸とか見たりして下心が透けて見えるんだよね。逆に葵はそういう風な目で見ないから安心かも。ちょっとモヤモヤするけどね。


「え、これからの俺の恋愛がなくなるじゃん。」


「え?」


 葵が急にそんなことを言ってくる。恋愛……恋愛……お付き合い。誰と?私以外の女の人。デートとかするんだよね。


 葵が別の女の人と歩いている光景を想像したら胸がモヤモヤして苦しくなってきた。そして私は思い出した。


 を。


 葵が付き合い初めて、知らない誰かとデートに行く。私は泣きながらそれをただ見つめるしかなかった。それが堪らなく嫌だった。


「そ、葵。か、彼女作っちゃうの?わ、私、葵と遊べなくなっちゃうの?そ、そんなの……嫌、嫌だよぉ。」


 身体が震えていき、堪らなく葵に強く抱きついた。悲しくなって涙も出てきた。


 葵は何も言わない。呆れたのだろうか、それとも面倒臭くなったのだろうか。こんなのと付き合ってられないと離れていくのを想像した。


「嫌ぁ、葵どっか行かないで。ぐすっ。私とずっと一緒にいて。」


 私はぐすぐすと葵に泣きつく。嫌な妄想が止まらない。


「ごめんな。不安になったよな。俺が悪かった。何処にも行かないから泣き止んでくれ。」


 やっと葵が喋ってくれた。葵は何も悪くないのに謝ってくれる。本当ならこうしている私が謝らなきゃいけないのに。


「ほんと?ぜったい?どこにもいかないでくれる?」


 私は安心したいがためにもう一度と聞き返す。


「うっ。あ、ああ。絶対何処にも行かない。」


 何処にも行かない。その言葉を聞いてまた、涙が出てきちゃった。でも今の涙は嬉し涙。私はしばらく葵に抱きついて泣いた。


「うん、うん。良かったぁ。手、繋ご?」


「そうだな。元々そういう約束だったしな。」


 しばらくして泣き止んだ後、約束の事を思い出したから葵に言ってみる。葵も約束を覚えてくれていたので私達は手を繋ぐ。


 ギュッ


 手を繋いでみたのは良いものの、なにかが物足りない。なんか、こう、もっと密着していたい、みたいな?


 そこで私は1度はしてみたかったをしてみた。


「んなっ!」


「えへへぇ。これやってみたかったの。」


 所謂いわゆる恋人繋ぎというものである。これによって繋いでいる手の密着感が増して私は満足だった。


 にぎにぎ、にぎにぎ。


「お、おまっ。」


「んふふー。これ、今までのより1番良いかもぉ。」


 嬉しくて手をにぎにぎして喜びを表したんだけど葵はくすぐったかったらしくて少し慌てていた。


「ねぇ。これからは手繋ぐ時、これじゃダメ?」


 この感じを1度味わってしまったから、もう前の手繋ぎには戻れなそう。いや、確信があった。これから手を繋ぐときはずっとこうして繋いでいたい。そう思ったから葵にも聞いてみた。


 にぎにぎ、にぎにぎ


「あ、ああ。分かった。分かったから手をにぎにぎするのはやめてくれ。」


「んふぅ、やーめないっ!えへへ。」


 やった。葵から許可貰っちゃった。これで気にせずに恋人繋ぎできる。後、にぎにぎするのは楽しくなってきたのもある。なんか癖になっちゃうかも。葵がここにいるっていうのが良くわかる。



 それから、私達はゆっくり帰った。恋人繋ぎをして帰る道は長いにも関わらず短く感じた。だけどとても幸せだった。

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