第7話 表

 やっと終わった。これで野郎共の視線から逃げられる。途中で女子もヒソヒソと俺に関する何かを話していたが。


 まぁ、いい。俺はさっさとかえ……


「葵。早く帰ろっ」


「……」


 憎らしいほどの笑顔で玲奈が近づいてきた。そうだった。こいつがいたんだった。俺に安息はないのか。


 てか、こんな場所で俺を誘わないでくれ。ほら、見てるだろいんな人が。主に男子が多いけど。


「お、おい。沢優さわすぐさんめちゃくちゃ笑顔じゃん。」


「あ、ああ。あんな笑顔初めてみた。俺らには絶対しないような笑顔だな。」


 ああ、また注目されてる。俺はげんなりした。約束したものはしょうがないが、疲れてしまうものはしょうがないだろう。俺普段余り注目されないからこういうのに慣れてないし。


「分かったよ。ほら、さっさと帰るぞ。」


「あ~待ってよー。」


 一刻も早く教室から離れたかったので、少し速めに歩く。玲奈は後ろから小走りでついてきた。


「あいつら、帰ってからなにするんだろうな。幼馴染だろ?絶対家が隣同士とかじゃん。」


「さぁな。てかあいつら絶対デキてるだろ。あんな空気撒き散らしてさ。」




 ____________________________________________





「もう、恥ずかしいからって逃げなくても良かったのに。」


「別に恥ずかしかった訳じゃないんだけど。」


 学校を逃げるように出ていった後、俺は玲奈とゆっくり歩いて帰っていた。そうそう、このゆったりとした空気が1番良い。気持ちが和らいでいく。


「今日1日私と葵の事で話が持ちきりだったね。」


「そうだな。お前が手を離してくれなかったからな。」


 本当にそうだったと思う。休み時間は好奇の視線にさらされ、少し誤解を解こうとすると逆に悪化させてしまうし。高校生って本当にこういうの大好きだよな。


「まあどうせ、すぐ収まるだろ。」


「別に収まんなくても良いんだけどね。本当の事なんだし。」


 さらっとそんなことを言う。まぁ、収まんなかったら収まんなかったで人は慣れてしまうのでそんなに変わらないだろう。


「え、これからの俺の恋愛がなくなるじゃん。」


「え?」


 しかし、俺だって立派な高校生。恋愛だって1度はしたい。この噂が定着すると必然的に俺と玲奈はデキていることになり俺は恋愛が出来なくなる。それは嫌だったので玲奈の考えを否定した感じで言ってしまったのだが。


「そ、葵。か、彼女作っちゃうの?わ、私、葵と遊べなくなっちゃうの?そ、そんなの……嫌、嫌だよぉ。」


 玲奈は少しずつ震えていき、終いしまいには抱きついてきた。息が出来ないほどに強く抱き締めてくるおかげでワイシャツが少し濡れた。


 俺は後悔した。朝、こんなことがあったばかりじゃないか。俺はまた玲奈を不安にさせてしまった。


「嫌ぁ、葵どっか行かないで。ぐすっ。私とずっと一緒にいて。」


 ぐすぐすと泣きながら懇願してくる。俺はその光景を見て、胸がとても痛くなった。なんだ、これ。


 胸の痛さがとても気になったが今は玲奈の方を優先する。俺は玲奈が安心する言葉をかける。


「ごめんな。不安になったよな。俺が悪かった。何処にも行かないから泣き止んでくれ。」


「ほんと?ぜったい?どこにもいかないでくれる?」


 玲奈が顔を上げ俺を見てくる。身長差でどうしても玲奈が俺を見上げることになる。


「うっ。あ、ああ。絶対何処にも行かない。」


 潤ませた目、上目遣い。この2つが相まって俺の心臓に大ダメージを与えた。意識せずにやってくれるから困る。


「うん、うん。良かったぁ。手、繋ご?」


「そうだな。元々そういう約束だったしな。」


 俺が何処にも行かないと宣言し、しばらくして泣き止んだ後、ほっとしたような顔で約束を持ち出す。俺はそれに抵抗せず手を繋いだ。


 その時俺の心にあったのは、安堵だった。俺は何に安堵した?何故さっきは胸が痛くなった?分からない。


 ギュッ


 玲奈が手を繋いできた。温もりが伝わってくる。やっぱり温かいな。しかし、玲奈はこれで終わるつもりではなかったらしく……


「んなっ!」


「えへへぇ。これやってみたかったの。」


 巷では恋人繋ぎと呼ばれるやつをしてきたのだった。急だったので俺は何も反応できず玲奈の手が絡まるのをただ見ていた。


 にぎにぎ、にぎにぎ。


「お、おまっ。」


「んふふー。これ、今までのより1番良いかもぉ。」


 手をにぎにぎして楽しんでいる玲奈。とても変な感じだ。こそばゆいんだが嬉しい、みたいな。


「ねぇ。これからは手繋ぐ時、これじゃダメ?」


 ちょっと不安そうにこちらを見つめてくる。くそっ、だからなんでそんなに可愛い仕草をするんだよ。


「あ、ああ。分かった。分かったから手をにぎにぎするのはやめてくれ。」


「んふぅ、やーめないっ!えへへ。」


 それから俺たちはゆっくり帰っていった。ゆっくりと、まるでずっと手を繋いでいたいというように。




____________________________________________



 あとがき


 あれぇ?なんかちょっとヤンデレっぽい?筆がのって?この場合は指が踊ってかな?話を進めていたらこんなことに……

 後、葵君は女たらしみたいな感じになったかも……

 ま、まぁ。ここから巻き直します(汗)


 そして、いつもハート、星、そしてブックマークありがとうございます。これらが増えているのを確認できるとすごく嬉しくなります。これからも頑張っていきますので、楽しみにしていてください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る