第6話 表

 気まずい。非常に気まずい。周囲からの視線にうんざりする。どうしてこうなった。いや分かってるけども。


「……はぁ。」


 ため息をつく。こんなことなら最初から手を繋ぐなんて考えなければよかった。もうちょいましなのを選んでたらこんなことにはならなかったはず。


「あいつだよな。沢優さわすぐ先輩と手繋いでたやつ。」


「ああ、顔は普通だけど性格が良くて結構人気な仮色かりい先輩だろ。」


 廊下から見てくる奴らまでいる。後そこ、自覚してるんだから顔は普通って言うな。しかも俺そこまで人気じゃないし。なんなら話す異性なんて玲奈しかいないし。ちくしょう。


「……あれ?目がぼやけてきた。ごみでも入ったのかな。」


 慌てて目を擦る。俺もモテる奴の気持ちを知りたかった。てかもう一人の主役はどうなってんだよ。


 俺は玲奈の方を見る。


「ねえ、玲奈。なんであんた仮色君と一緒に来てるのよ!しかも手まで繋いじゃってさあ!」


「えっと、やむにやまれぬ事情がありまして?」


「そんな理由で手繋げれるなんて羨ましいわぁ。」


 結構お気楽な感じだ、羨ましい。普通に友人と話してるし。俺の友人なんて面倒事は嫌なタイプだからすぐに離れていったよ。


「早く学校終わらねぇかな。」


 こんな空気に耐えきれず思わずぼやく。しかし、そんなぼやきも目敏く拾うやつもいるらしく……


「お、おい。聞いたか。仮色先輩学校早く終わらねぇかなとか言いやがったぞ。」


「まじか。きっとまた沢優先輩と手を繋ぎたいんじゃないか?なんならその次のハグとかも?」


 あーもう、すぐにそんな妄想ばかりしやがって。俺そんなこと言ってないじゃん。


 また一段階視線の圧が強くなった気がした。泣きてぇな。




 ____________________________________________





「いやぁ葵。午前は大変だったねぇ。」


「うるせえよ。人を置いてどっか行きやがって。」


 昼休み。俺は朝何処かに逃げていた桔梗ききょう石晶いしあきと昼御飯を食べていた。


「まあ、朝からあんなのを見せられると…ねぇ?」


「言っとくが見せつけたわけじゃないからな。本当なら少し前で離してたはずなんだよ。」


「ほうほう。それで?」


「玲奈が手を離してくれなかったんだ。」


 石晶の表情がワクワクしたものからじとっとしたものに変わった。なんだよ。


「……君は僕に惚気たいのかい?それなら余所でやってくれよ。」


 こいつなに言ってるんだ?惚気てるわけないだろうが。どっちかっていうと不満を言ってんだよ。


「お前なぁ。惚気って付き合ってる奴がするものだぞ。」


「一般常識としてはそうだね。でも、君たちの朝の出来事で君たちは出来ていると認識されている。ならもう惚気で良いじゃないか。」


 客観的に見たらそうだろう?と言われて考えてみる。うん、何も言い返せない。確かに朝の俺たちはカップルが軽めのイチャイチャをしながら登校するような感じだったな。


 それを周りが見たと。その後、彼女が手を離してくれなかったなんて聞いてみたら……


 惚気だな。


「俺が悪かった。だから惚気なんて言わないでくれ。」


「分かれば良いんだよ。じゃあわざわざ僕に説明させたお詫びでジュース奢ってくれ。」


「……分かったよ。奢れば良いんだろう、奢れば。」


 はあ、今日は災難な事ばかりだ。財布は軽くなるし、周りの目は痛いし、帰りも手を繋がなきゃならんし。さらに誤解されるな。


 俺は出来ることなら帰りは普通に帰りたいと願った。だが、もう約束してしまっているのでその願いは叶わない。


 俺は肩を落としながら昼休みを過ごした。

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