第5話 裏

 私は今、葵と手を繋いで登校している。なんでこうなったのかは私にも分からない。


 でも手を繋いで分かったことは嬉しいってこと。それと、胸がぽわぽわしたり、ドキドキしたりする。なんでだろ?


 でも、1番思うのは……


「……ねぇ、葵。これ、かなり恥ずかしいんですけど……」


 恥ずかしい。これが1番かな。相手は昔から一緒にいる幼馴染だ。それだけなら少し恥ずかしいですむ。


 だけど、私たちは高校生。恋愛に敏感なお年頃である。知らない他人に見られるならまだしも、友達とかに見られたら誤解されちゃう。


 あ、やっぱり他人に見られても恥ずかしいものは恥ずかしいや。


「まぁ、諦めろ。お前がずっと不安に思うよりは良いだろ。」


 ぐぬぬ、さりげなく優しくしてくれるから余計に手を離しづらい。でも、離したら離したで少し不安になるかも。


 自分の感情が分からない。自分じゃない誰かに振り回されている感じ。


「ほら、恥ずかしがってないで学校行くぞ。時間的には余裕がありまくるがこのペースならちょうど良い時間につくと思うぞ。」


「むぅ……分かってるよ。でも、私だけ恥ずかしがってるとか何か理不尽。」


 葵が私に促してくる。なによ、自分は平気な顔してさぁ。もう少しこう、何かないのかな。自分は恥ずかしがってるのに葵は恥ずかしがらないことに少しモヤモヤする。


 だけど、急に葵が私の手をにぎにぎしてきた。なにかを確かめているような感じ。ゴツゴツとした男らしい手が私の手を少し強く握ってくる。


 これがまたむず痒くて、恥ずかしくて、でもそれ以上に嬉しくて。


「っ……ばかぁ。」


 でもやっぱり恥ずかしかったので葵に聞こえないように罵倒した。




 ____________________________________________




 うへへ、葵ににぎにぎされるの楽しい。もっとやって欲しいな。


「玲奈、そろそろ離すか。」


「………ふぇ?」


「どうした?」


「う、うん。そ、そうだね。手、離そっか。」


 っは!そうだった。まだ登校中だよ。気付いたらトリップしちゃった。いやいや、手をにぎにぎされてトリップする女って……


「ごめんな。恥ずかしかったよな。帰りはもうちょいましなのにするよ。」


 私が自分の考えに肩を落としていると突然葵がそんなことを言い放った。


「えっ……」


 冷水をかけられた気分。餌を目の前に吊るされてたのに食べられない絶望のような感じ。


「い、嫌!帰りもおんなじように手繋いで帰るっ!」


 私は反射的に手を繋いで帰ると言った。自分でも何でこんなことを言ったのか分からない。帰る時になればもう大丈夫だと自分でも思ってるのに。


「え、いや。だってお前大丈夫そうじゃん。顔色も良いし。さっきの顔が赤くなっていたことを除けば俺の考えが妥当じゃね?」


 葵も同じことを思ったのか私の考えと同じことを言う。


「そうだけどっ。でも放課後になんなきゃ分からないじゃん!それにまたぶり返すかもしれないから手を繋いで帰ることは決定なの!」


 それでも納得できなかった私は支離滅裂な事を言っているのを自覚しつつも我が儘を言う。迷惑をかけるって分かっていても止められなかった。


 また自分の感情に動かされてる。今日の朝といい今といいなんなんだろ。


「ああ、分かった分かった。玲奈お嬢様の言う通りですね。」


 私が何がなんでも折れないと経験上知っているからか、葵はすぐに私の我が儘を聞いてくれた。ちょっと申し訳ないかも。


「そうでしょ。分かれば良いのっ。ほらっ、早く学校入ろ?」


 でも嬉しかったので、私が先に立ち葵の手を引っ張る。帰りも手を繋いで帰れることにウキウキしながら学校の中へと歩いていく。


 この後、我が儘を言ったことのばちが当たることに私はまだ気付いていない。いや、嬉しくてそれどころじゃないかも。

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