第5話 表

「……ねぇ、葵。これ、かなり恥ずかしいんですけど……」


 学校に登校中。顔を赤くしながら玲奈が言ってくる。そりゃそうだろうな。


 なんたっているんだもんな。付き合ってもいないのに。自覚なしのカップルなら分からなくはないけどな。俺たちは違うだろう。


「まぁ、諦めろ。お前がずっと不安に思うよりは良いだろ。」


 そう、俺がやろうとしていたことの1つはこれだ。まだまだあるんだが、とりあえずはこれだけで大丈夫だろう。


「ほら、恥ずかしがってないで学校行くぞ。時間的には余裕がありまくるがこのペースならちょうど良い時間につくと思うぞ。」


「むぅ……分かってるよ。でも、私だけ恥ずかしがってるとか何か理不尽。」


 何か文句を言っているが気にしない。学校行かないより恥ずかしくても行っていた方がましな気がする。


 たった1日休むだけでもノートを写すのに時間が掛かるし、それだけで授業内容が理解できるわけでもない。


 だから玲奈を夢の内容で不安にさせないように手を繋ぎながら学校へ行くのはは仕方がないことなんだ。俺はに言い聞かせる。だから俺が気付かないように玲奈の手の感触を味わっても良いだろう。いや、俺変態かよ。




 あー、でもやわらけぇ。すべすべしてるしいくらでも触れるわぁ。


 フニフニ、フニフニ


「っ……ばかぁ。」




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 学校が近づいてきた。そろそろ手を離しても良いだろう。さすがに知り合いとかに見られるのは不味いしな。


「玲奈、そろそろ離すか。」


「………ふぇ?」


「どうした?」


「う、うん。そ、そうだね。手、離そっか。」


 玲奈は急いで手を離した。そ、そんなに恥ずかしかったのか……。そりゃそうか。玲奈も年頃の高校生。いくら幼馴染でも恥ずかしかったり抵抗があるだろう。


「ごめんな。恥ずかしかったよな。帰りはもうちょいましなのにするよ。」


 そうは言ったものの今の玲奈の調子なら帰りは何もしなくても大丈夫だろう。普通に元気なってるし。


「えっ……」


 玲奈が驚いたようにしている。いや、実際に驚いてんのか。いや、なんで?


「い、嫌!帰りもおんなじように手繋いで帰るっ!」


 はい?


「え、いや。だってお前大丈夫そうじゃん。顔色も良いし。さっきの顔が赤くなっていたことを除けば俺の考えが妥当じゃね?」


「そうだけどっ。でも放課後になんなきゃ分からないじゃん!それにまたぶり返すかもしれないから手を繋いで帰ることは決定なの!」


 ええー。久しぶりに我が儘モードに突入したんだけど。意外に頑固だからこうなったら玲奈の望み通りにするしかないんだよなぁ。


 てか此処学校の前だぞ。お前そんな大きな声で喋って良いのか?まあ、勝手に後から思い出して恥ずかしがるだろう。


「ああ、分かった分かった。玲奈お嬢様の言う通りですね。」


「そうでしょ。分かれば良いのっ。ほらっ、早く学校入ろ?」


 俺が承諾した途端元気になり、そして手を引っ張ってくる。このまま学校に入るのかねぇ。後から知らないぞ?


 俺は玲奈が自爆したことを悟り心のなかで合掌した。この後玲奈は友達から問い詰められるだろう。それと大声で我が儘という名の可愛いおねだりをした生徒がいたという噂が広がるだろう。


 俺はそんなことを思いながら玲奈に手を引かれて学校へ入った。




 ____________________________________________



 2人が行った後……


「おいおい、なんだよあれ。美少女で有名な沢優さわすぐ先輩があんなこと言うなんてな。」


「ああ。これは学校中に広まるぞ。」


「それに隣の男は性格よくて案外モテてる仮色かりい先輩じゃないか!」


「これはスクープじゃないか?」


「「今すぐ(非公式)グループに知らせねば!」」



 一瞬で広まった。

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