第2話 裏

 幸せな夢を見ていた。小さい頃の私と葵に似ている子供が公園で遊んでいる光景。2人で意味もなく走り回ったり、砂場で山を作ったりしている。


 昔の私たちみたいだけど、所々記憶と違っている。私たちは砂場では遊んだことがあるけど、走り回ったことなんてない。


 もうひとつの違いは、その2人を見守っている親がいることだ。男の人は葵に似ていて、女の人は私に似ているような気がする。その2人は公園のベンチに座り、手を繋いでいる。


『ねぇ、あなた。』


『どうした?○○』


『ふふっ、なんでもないの。ただ、無性にあなたを呼びたくて。』


『なんだ?構って欲しいのか?』


『そうかもしれないわね。』


『今は子供たちを見るのが大事だから後からな。これで我慢してくれ。』


 そう言って男の人は女の人に顔を近づける。やがて2人の顔は重なって………






 フニフニ、フニフニ


「んんっ……むふぅ」


 誰かにほっぺを触られている気がする。まだ寝ていたいから邪魔しないで欲しい。しばらくすると触られなくなったのでまた夢の世界へ旅立とうと思う。


 ガチャ


「葵ー、お昼ごはんできたわよ。あら?」


 もう少しで旅立てると思っていたら、おばさんの声が聞こえてきた。あれ?なんでおばさんの声が聞こえるんだろう。

 寝起きで頭が回っていないからなのか今起こっていることがあまり理解できない。


「か、母さん?ノックくらいしてくれよ。着替えてたらどうすんだよ。」


 それに、葵の声も聞こえてくる。ということはここは葵の部屋なのかな?


「息子の上裸なんて見ても気にしないわよ。」


「俺が気にすんだよ!」


 ああ、そうだ。私、葵を起こしに行ってそこから抱きしめられて温かくて寝ちゃったんだ。でも今はその温もりが離れてる。少し、いやかなり寂しく感じる。


「そんなことどうでも良いじゃない。それよりあんた、今玲奈ちゃんのほっぺ触ってたわね?」


 葵が、私のほっぺを触ってた?さっきの感触は葵のだったんだ。


「そうだよ。柔らかそうだったからつい触っちまった。女の子ってめちゃくちゃ柔らかいんだな。」


 葵が私を女の子だって。いつもは家族みたいであまり意識されてない気がするから新鮮かも。


「んん……葵?」


 つい声を出してしまった。だけどその事をきにするよりも今はこの寂しさを埋めたい。眠る前のあの温もりが欲しくてたまらない。


「えへへー、そうー、ぎゅってして?」


 だからついついこんなことを頼んじゃった。さっき抱きしめてくれたんなら今も抱きしめてくれるはず。そう思って私は寝ぼけ眼で葵を見る。


「お、おう分かった。ぎゅってすれば良いんだな?」


 恐る恐るという感じで葵が私をぎゅってしてくれる。そうしてくれたことで葵の温もりが私に伝わってくる。


「んふふー、そうーあったかーい。」


「……そうか。」


 葵はやっぱり温かい。小さい頃に一緒に寝ていた頃から葵は温かかった。今は一緒に寝ることはなくなったから忘れていたけど癖になりそうかも。


 私はしばらく葵に抱きしめられていた。


 おばさんが見ていて、この後大変になりそうなことを知りもせずに。

 そして、今の状況を後から振り返ってみるとかなり恥ずかしいことも知らなかった。

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