第34話 神崎那々

 神崎那々。僕の妹である。


 那々は両親と一緒に海外に行ったはずなのだが・・・・。


「・・・・那々?」


 口に出す名前は久しぶりに発音するものだった。久しぶり過ぎて、上手く発音出来ているのか分からない。


「うん・・・・!!!」


 涙を見せながら、頷く那々。僕は妹と再会した。




 那々は学校の友達と遊びに来ていたらしいが、その友達が複雑過ぎる家庭事情を察してくれたらしい。そのおかげで、僕の隣には那々が座っている。


「那々が帰ってきてること知らなかったの!?」


 驚きを隠さない那々が僕を問い詰める。


「うん。何も連絡がなかったよ」


 両親からは何も連絡を貰っていない。というか、僕とは別の住居を用意している時点で僕とは切り離したかったのだろう。


「那々ちゃん・・・・! 由芽のこと覚えてる・・・・?」


 そうか。由芽と那々は仲良しだったな。


「勿論! 覚えてるよ!」


 そう言って抱き合う2人。女子って何かある度に抱き合って感情表現をする。これは女子ならではの習性なのだろうか。


 ソワソワしている残りの2人を僕の視界が捉える。


「えーと、この2人は僕と部活が一緒の人」


 そう言って、適当に紹介しておく。


「うん! 那々は・・・あ、私は神崎那々です! 正真正銘の神崎佐の妹です!」


 僕に答えるように自己紹介をする那々。自分のことを那々と下の名前で呼ぶ癖も、由芽から影響されたものだ。


「苗村雫です。神崎くんの先輩やってます~」


「・・・・本居姫花です」


「皆さん兄をよろしくお願いいたします!」


 立ち上がり、ペコリと頭を下げる妹。うーん、妹にしては良く出来過ぎているよな・・・・。やっぱり僕とは血が繋がっていない説が濃厚だ。


「それで! お兄ちゃんはずっとこの町にいるの? どこに住んでるの? 那々も一切聞いてなかったんだけど!」


 疑問を僕にぶつけられる。


「っていうか、お兄ちゃんは全寮制の学校に行ってるって聞いてたんだけど!!!」


「・・・・お兄ちゃん、普通に千住高校に通ってるよ」


「えー!!! あれ? 由芽ちゃんも千住高校?」


「うん! そうだよ!」


「おおぉー!!! 由芽ちゃん、頭良くなったんだね!!」


 パチパチと拍手しながら由芽を褒め称える那々。気まずそうにへへと愛想笑いをする由芽。目を背ける他2人。そこに不思議な空間が出来上がっていた。


「今度は僕から質問するよ。那々は今どこに通ってるの?」


 この微妙な雰囲気を変えるために、僕から質問する。


「聖護女子だよー。帰国子女枠で五月途中から入学した!」


「お前、凄いな・・・・」


 聖護女子中学校は中高一貫の私立学校。女子校という括りだったら全国でもトップレベルの偏差値を誇っている。


「賢いね~!?」


「・・・・難敵ね」


「凄っ!!!!!」


 1人だけ敵視している人がいる気がするが無視しておこう。


「いやぁ~。英語だけだけどね!」


 小学校の後半を英語圏で過ごしているだけあって、英語は日本人離れしているのだろう。今度、兄としてのプライドを投げ捨てて、教えを乞うことにしよう。


「・・・・でも、やっぱりお母さん達。そういうことだったんだね」


 ふと、真剣な顔に戻る那々。僕の両親は僕との関係を切りたがっている。だから、妹には僕の高校から少し離れている中学に入学させているし、僕は全寮制にいると噓をついている。


 過去の事実から考えると当たり前だが、やっぱり心に応える話だな。


 何も知らない3人は揃って首を傾げている。いや、由芽は少し知っていた気がするけどな。


「決めた! 那々、お兄ちゃんのところに引っ越しする!」


 考えこんでいた那々が決断したように言う。


「やめとけ。お母さん達に怒られるぞ」


 お母さん、と口にする瞬間、躊躇いを持ってしまった。あの人は僕の母親と言えるのだろうか。


「もう那々は中学生だよ? 那々が決める」


 決意を目に宿している。あぁ、そうだったな。あの時は僕と一緒に居たいと言いながら、那々は僕以外にその意見を言えなかった。誰かに決めてもらうしか出来なかった。成長したんだな・・・・と勝手ながらに感じる。


「それに・・・・家族は一緒の方が良いでしょ?」


 話を聞く限り、母と父は仲良くしているらしい。そうなると、バラバラになった家族は僕を除いて再構成していることとなる。


 家族が居なくなった、と思っていた時にそう言われた。


 僕は差し伸べられたその手を握るしか出来なかった。

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