第31話 普通

 胃がもたれる・・・・。夜にヘビーなステーキなんて食べなかったらよかった・・・・。


 絶賛後悔中なのは寝起きの高校一年生、神崎佐です。


 部屋の明かりをつける。どうやらソファーで寝落ちしていたらしい。だが、きちんと目覚まし時計をかけている。これこそ僕の能力なのではないのだろうか。脳内審議にかける必要がありそうだ。


 適当に冷蔵庫を漁り、登校する。明日は土曜日、そして明後日は日曜日。つまり、今日が平日最後の金曜日なのである。


 ここ一週間は色々なことがありすぎて睡眠が短かった気がする。この土日は沢山寝ることにしよう。


 教室に着くと、まだ数人しかいない。


 教科書を開き、テストに出そうなところを確認する。あぁ、この能力でテスト問題を見ることが出来たらなぁ。


 無駄な願いをしてみる。


 未来は僕にとって良いことは教えてくれない。不便過ぎる能力だ。


「佐、おはよう!」


 教室が騒がしくなり始めた頃、香乃、いや由芽がやって来る。


「うん。おはよう」


 僕の返事を聞くと満足そうに頷いて席に行く。


 今日も一日が始まる。



「なので由芽達は勉強しなくちゃいけません!!!!!」


 僕は理解していなかった。香乃由芽という人間を大体は理解しているつもりだったが、それは大体ではなくごくわずかだったらしい。


 文芸部に着くなり、僕のお告げだと言い部員に勉強を迫る由芽。僕の説明が宗教家のように片付けられていて凄く訂正したいけど、ここは黙っておくことにする。


 部室には初夏の風が吹込み、皆の髪を揺らす。


 由芽に言いたい。由芽が信じてくれたのは異例なんだ。普通の人は間違いなく信じない。そして、未来が的中すると気味悪がる。これは想像ではなく、経験則だ。


「私は勉強してるから関係ないわね」


 静寂を最初に破ったのは姫花。何もなかったのかのように勉強を再開する。


「・・・・嫌だ」


 ポツリと呟かれた言葉が部室に響く。


「勉強なんて嫌だよぉぉ!!!!!!」


 先輩ぃ・・・・。


 拒絶反応を起こしたのは苗村先輩でした。


「何で!? 何で勉強しなくちゃいけないの!?」


 机を叩き、鬼気迫る表情で僕たちを見つける。


「ほら、その紙にかいてあるんじゃない?」


 姫花が指さすのは、ついさっきまで先輩が書き込んでいた大量の原稿。


「・・・・うん。書いてある」


 しおらしくなる先輩。自分の理論に丸められたらしい。


「ほら、頑張ろう! ね!?」


 由芽が先輩の手を握り、励ます。普通は立ち位置が逆だと思うんだけどね。


「嫌だぁ・・・・でもここが無くなるのも嫌だよ・・・・」


「私が一番困るわ。ほら、今日から勉強しましょ」


 ・・・・ん?


「部活が無くなるって話は信じるのですか?」


「え? 嘘ついたの?」


 真顔で返される。いや、嘘はついてないんだけど・・・・。


「信じがたいけど、どうでもいいわ」


 どうでもいいんだ・・・・。


 経験則のどれにも当てはまらない返答を僕に返す二人を唖然としながら見つめていると、由芽がグッドマークをしてきた。何だよ、そのキメ顔は・・・・。


 あぁ、そうか。ここに居る人達は普通ではない。


 笑えてくる。


 僕のことを好きな幼馴染と、学校には登校するけど教室には絶対行かないポーカーフェイス、勉強は極度に出来ないが文章だけは息を吐くように生み出す先輩。


 ここは”普通”ではないな。

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