第30話 ブラックバイト

 学校では流しているロングヘアーは纏められており、眼鏡をしている。一見しただけだと誰か分からなかった。


「眼鏡かけてたっけ?」


「・・・・いつもはコンタクトよ。まさか会うとは思わなかったわ」


 ため息をつきながらよそを向く足立。


 そうなのか。コンタクトを付けているなんて気付かなかった。だが、眼鏡姿も良い。雰囲気はガラッと変わるが、似合っているのは間違いない。


「それで。ご注文は?」


 思い出したかのように注文を聞かれる。どうしよう。足立の眼鏡に気を取られていて料理のことを考えていなかった。


「あー・・・・これで」


 慌てて指差したのはステーキ定食。このファミレスのメインメニューだ。


「かしこまりました!」


 謎に語尾だけ上げる発音で注文を受ける足立。やっぱり他人にバイト姿を見られるのは恥ずかしいのだろうか。


 僕はバイトをしたことない。そもそも、高校自体がバイトを許可制にしているから、バイトをしている人は少ない。許可されるのは成績優秀者のみ。僕の成績だと許可されないだろう。


 バイトに興味がないと言ったら嘘になるが、僕の体質上避けた方が良いだろう。僕の不幸がお店にかかってしまった場合、学生の僕ではどうにも出来ない損害が出てしまうかもしれない。僕のせいだと気付かれなくても、良心が痛む。


 だが、そんなことを言ってられるのも学生のうちだろう。


 そのうち社会人になり、否が応でも会社に勤めなければならない。


 僕の未来は暗い。


 このまま考え続けると確実に気が滅入りそうなので、思考を放棄して窓の外を眺める。


 国道を通る車のヘッドライトが、煌びやかな景色を作っている。


 絶えず何かが動く世界。その中でただ見てる僕は奇妙な感覚に襲われる。


「・・・・はい。どうぞ」


 目の前に料理が差し出される。店員さんがぶっきらぼうだが、気にしないでおこう。


「どうも」


 受け取り、ナイフとフォークを構えると目の前に足立が腰を下ろす。


「はぁ~、シフト長かったぁ~」


 そう言って髪をほどき、ファミレスの制服を脱ぐ。


「お疲れ様」


 一応、労いの言葉をかけておく。だけど無言で目の前に座るのはどうかと思います。


「うん。ここ、バイト足りてなくて困ってるんだよね」


 チラッ


「お給料も良いんだよ? 新しい人来ないかな」


 チラッチラッ


「あ、そういえば神崎。バイト探してるって言ってたよね??」


「言ってないよ!!!!」


 バイトの勧誘がストレート過ぎてビックリするよ!


「・・・・まぁ、本音は私もやめたいんだけどね」


「お、おう」


 トーンを落とした足立が語り始める。


「だって給料悪いし、シフト滅茶苦茶入れなくちゃいけないし・・・・」


 え? さっき給料良いって言ってなかった? 


「・・・・やめたら?」


 後押しが欲しいなら押してあげよう。そんなブラックバイトなら辞めるべきだ。


「いやぁ、店長が代わりを見つけるまで辞めるなって。だから神崎を誘ってたんだけどね」


 僕の未来並みにブラックじゃないか・・・・。って、そんなブラックバイトに僕を誘おうとしていたの!? やめてほしいな!??

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