第29話 条件付きの信頼

「佐。教えて」


 すっかり暗くなった空の下、校門をくぐると香乃が僕を見上げる。やはり気づいていたのか。


「知りたい?」


「うん」


 香乃に言い聞かせる。僕が体験した、これまでとは少し違う未来を。話ながら考える。あれ、これって僕が香乃達を勉強させるために作った噓に聞こえない?


 客観的に僕が話している内容をまとめる。うん、凄い。完璧なまでも嘘に聞こえる!


「・・・・ホント?」


 疑わしい目で僕を見てくる香乃。いやぁ・・・・そうですよね。言ってる本人も噓っぽいって考えていました。


「本当だよ?」


「・・・・」


 ダメだ。これは笑えてくる。口から笑みがこぼれそうになるから、より信憑性が落ちてゆく。あぁ、ダメだこれ。


「しょうがないなぁー。信じるよ?」


「今なんて!?」


 驚き、香乃に問い詰める。


「うわっ! 急に食いつくのビックリするって!!」


 それは食いつくだろ!


「信じるよ。噓っぽくても、佐がそういうなら信じる」


 エッヘンと胸を反らす香乃。思わず、頭を撫でてしまう。


 だけど心配だ。こんな簡単に信じてしまうなら、詐欺師にも容易く引っ掛かるのではないだろうか。


「でもね? 言う事聞いてくれたら信じるよ?」


 無条件の信頼かと思っていたけど、条件付きでした。


「条件とは?」


「由芽って呼んで?」


「・・・・」


 なるほど。いや、気付いていました。姫花って名前呼びにしてって言われた時、凄まじい目線が僕に届いていたのは記憶済みです。


 だけどなぁ・・・・恥ずかしいんだよなぁ・・・・。


 昔は言っていたけど。今になってはその名を呼ぼうとすると、羞恥心がブレーキをかける。


 でも仕方ない。未来を変えるための代償ならこれくらい払おう。


「・・・・分かったよ」


「ありがとう!!!!」


 飛び跳ねる香乃。いや、由芽。何とも可愛らしい。


 そのまま香乃を家に送り、僕は僕の家へと帰る。


 ここ数日。そう、僕が未来を変えられなかったあの日から時の流れが速く感じる。


 僕は・・・・日常を楽しんでいるのだろうか。


 ドアを開け、部屋に入る。


 気が付く。


「夕食買ってない・・・・」


 仕方ない。近所のファミレスにでも行こう。


 適当に干してあったパーカーを着て、再び外に出る。


 昼間は暑いが、夜の気温は丁度良い。このままの気温で昼を迎えてほしいものだ。


 ファミレスの自動ドアをくぐり、席につく。


 空席が目立つから、一人でもボックス席に座っても大丈夫だろう。


 メニューを広げると、様々な料理が目を奪う。うん。今日は散財しよう。


 どうせなら一人暮らしでは絶対に食べることが出来ないような・・・・。


 店員さんが水を持ってやって来る。


「ご注文は・・・・」


 店員さんの声が途中で止まる。


 不思議に思い、メニューから目を外すと見慣れた顔が居た。


「・・・・神崎」


 足立愛。学校における、僕の隣人だ。

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