第27話 無期限停止への切符

「あー言ったねぇ~そんなこと」


 目の前で椅子を上下にしている生物科の先生は大西友里と言う。ルーズ過ぎると他クラスでも噂されるレベルの先生だ。


「まぁ、どうにでもなるよ。ほら、顧問特権使ってあげるからさ」


 職員室の騒がしさがヒートアップして僕らの耳へと届く。ん!? 今、この人なんて言った!?


「え、大西先生って文芸部顧問・・・・?」


 聞き逃さなかったのだろう。香乃が疑問をぶつける。


「そうだよ? ね、本居」


 うなづく姫花。あれ、僕たち、僕と香乃だけですか?


「とにかく安心しとけ。テストで良い点取れば悪いようにはしないよ」


 ひらひらと手を振る先生。早く退散しろってことだろう。


「・・・・ちなみにどのくらいの点数を?」


 最後に質問をしておく。


「そうだなぁ~。平均以上かな? だってそうだろ? 出席点が無いんだから」


「以上!? 無理だよ!!!!」


「いやいや、香乃が取るんじゃないから。ほら、もう行った行った。私は定時だから帰りたいんだ。・・・・まだ仕事あるけど」


 僕たちは何も言えず、退散する。最後の小声が教師のブラックさを物語っている気がした。


 いや、問題はそこではない。教師がブラックだろうと僕たち生徒には関係ない。


 問題は平均点の倍だ。


 職員室を出ようとすると、後ろから声が掛かる。


「おーい!! 忘れてた! 苗村に再再再テスト受けに来るように言っといてー。あと、課題も八回分残ってるって!!!」


 先輩ぃ・・・・。


 部室に帰ると、何やら不安そう先輩が僕たちの前に現れた。


「で! で、どうだった!? 関係ないこと言われなかった!?」


「言われたよ。先輩、再再再再テストに課題だってー!!!」


 香乃が満開の笑顔で答える。その反対の絶望に満ちた表情で先輩は答える。


「違うよ・・・・再再再テストだよ・・・・あぁバレてた・・・・」


 バレていないと思っている脳だが、再テストの回数は覚えているらしい。どうやら、先輩も極度に勉強できないらしい。ダメだこの部活。平均偏差値35くらいだ。


「私はどうすれば良いと思う?」


「授業に出たくないよね?」


 確認する。すると、首を思いっきり縦に振る。本当に行きたくないらしい。


「それなら本気で勉強するしか・・・・」


「私、頑張るよ! ちゃんと教えてね!」


 なにやらスイッチが入ったみたい。だが、考えてほしい。教える僕も平均を超えるのは珍しいことを。


 隣では先輩が香乃に愚痴を言い始め、目の前では一生懸命姫花が問題を解いてる。あ、そこ違うんだけどなぁ・・・・。


 ホント、どうしようもない部活だなこれ。


 軽くめまいがする。


 体が何かを受け入れる。これは未来を見る兆候。


 身構える。


 見えたのは・・・・これまでとは違う未来?


 どういうことだ。逆に”これだけ”で済むのか・・・・?


 内容は部活が解散する未来。理由はテストの出来が悪すぎたため。職員室で僕らは大西先生に部活動無期限停止を言い渡されている。


 「佐・・・・?」


 香乃が尋ねる。僕が未来を見ていたことに気づいたのか。


 「大丈夫。何でもないよ。ほら、姫花はそこが違うよ」


 何もなかったのかのように振る舞う。

 

 後で香乃には伝えておこう・・・・。

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