第26話 実技単位は何処へ
ただ時は過ぎ、あっという間に放課後へと突入した。
香乃が鞄を振り回しながら、僕の机へとやって来る。
「行こ!」
今日も文芸部へと行くことになりそうだ。
階段を上がり、文芸部室へと足を踏み入れる。まだまだ日数は経っていないが、僕の日常が構成され始めた。
ただ、その日常は僕にとっていいことなのか、悪いことなのか。僕は未だに分からない。
「佐。勉強」
扉を開けると、椅子に姫花が座っている。うん? そういえば、僕のことを下の名前で呼んでいたっけ?
まぁいいや。何だか香乃が頬を膨らましているけど、問題ないでしょう。
「うん。分かった」
僕は勉強を教え、香乃と先輩は原稿を前にして唸る。
「うーん、何で勉強しなくちゃいけないの!」
しばらくして、一切手が動いていなかった香乃がペンを投げ出す。
「・・・・将来のため」
一応、無難な答えを返しておく。
「由芽はお嫁さんだからそんなの要らないよー・・・・」
なるほど。僕としては学のあるお嫁さんが良いけど、それを口にして言うのは阻まれる。
「ならそれを文章にちなくちゃね!」
「それは難しいよぉ~」
確かに。私はお嫁さんになるので勉強は必要ないですってだけで完結してしまうから引き伸ばしようがない。
「テストで点数を取るためだと思うわ」
問題を解きながら、姫花が答える。姫花にとって一番重要なのはそれだからな。そうしなければ単位をもらえない。つまり、進級できない。
気になる。姫花はどうするつもりなんだ? 体育とかのテストが無い科目はどうやって単位を取るつもりなんだ・・・・?
「姫花、質問良い?」
「良いよ」
「体育とか家庭科とか美術はどうやって単位取るつもりなんだ?」
テストがある科目なら、テストだけを受ければ良い。恐らく、単位はもらえるだろう。だが、出席で決まる科目もある。それらはどうなるんだ・・・・?
「・・・・」
ペンが止まる。
香乃も、先輩も、僕も姫花の方を見る。
「・・・・どうしよう」
あ、考えていなかったらしい。
「それは出席しなくちゃ無理だと思うよ姫ちゃん・・・・」
「私もそう思うよ・・・・」
香乃と先輩が揃って出席するように諭す。
泣きそうな顔をして、僕の方を見る姫花。
「変わりに体育出て・・・・」
「無理だよ!!!!」
それは無理過ぎる。
「でも、言ってた! 先生が学校に来て、テストさえ取れれば良いって言ってた!!!!」
必死に姫花が主張する。
「担任の先生誰だっけ?」
「大西先生」
「「あぁー・・・・」」
僕と香乃の声が重なる。大西先生は三組担任。ルーズさが半端ないと噂の先生だ。少なくとも、皆が浮かべている先生像とは程遠い先生だ。
「聞いてこよう!!! ほら、みんな一緒に行こ!」
「今から!?」
提案する香乃に驚く姫花。僕も驚きたい。
「ちょーと、私は残っていたいかなぁ」
先輩が少し困ったように発言する。
「ダメだよ! ほら、先輩も!!!!」
「いや違うんだ!!! ホントに嫌だぁぁぁぁぁ!!!!! 助けて神崎くん!!!!」
泣きそうになりながら、僕のもとへと逃げる先輩。あぁ、よっぽど嫌なんですね。
「分かりましたよ。ほら、香乃。三人で行こう」
「うーん・・・・分かった、行こう!!!!」
職員室へと目指す僕ら。
この時はまだ知らなかった。僕たちは顧問の名前など聞いたことなかった。
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