第22話 夜を共に

 階段を上り、香乃の部屋へと向かう。そうか、ここは香乃一族の家だから、香乃っていう名前呼びだったら少し分かりづらい。だけど、昔のように名前呼びは恥ずかしいからこのままにしておこう。


 懐かしい。そう、香乃の部屋は廊下の端。何度もこのドアをノックしてきた。


「・・・・香乃ー。入るぞ」


「・・・・いいよ」


 ドアを開けると、香乃が使っているベッドと、床の面積を大きく占めている布団が目の前に現れる。あぁ、やっぱりか。やはりあの母親は僕を香乃と一緒に寝かせるらしい。年齢というものを考えてほしいものだ。


 ドアを閉めると、香乃が顔を上げて僕に抱きついてきた。


「・・・・ごめん」


 恐らく、全てを理解しているのだろう。僕が當間光輝と対峙したこと。その結果として、このざまなこと。


「いや、良いんだよ。気にしないで」


 これが正解なのだ。これが、最も被害が少ない方法なのだ。


 僕の服から離れない香乃の頭をそっと撫でる。本当に良かったよ。


「・・・・部屋は変わらないね」


 そろそろ話題を逸らしたい。部屋を見渡し、感想を伝える。


「うん。佐の恰好も全く変わってない」


 笑いながら、僕の服装を笑う。


「これはお母さんが出してきたんだ・・・・。まだ取っていたなんて思わなかったよ」


「ママはもの持ちが良いから。ほら、由芽のパジャマも変わってないでしょ?」


 確かに。見覚えがあるパジャマだ。


「でもそれ、香乃の身長が伸びていないだけじゃない?」


「あー!!!! それは、そのパジャマを着ることが出来る佐が言うことじゃないよ!!!」


「これは結構伸ばしているから!!!」


 そんな風にしていたら、自然と香乃に笑顔が戻っている。


 他愛のない話をしていると、日付が変わっていた。


「そろそろ寝るね。明日も学校があるし」


 不思議な感覚だ。この家から学校に行くことになるとは思わなかった。


「うん。由芽も寝る!!!」


「おやすみ~」


 部屋の電気を消して、布団に潜り込む。すると、暖かい感触が体に伝わる。


「何でいるの!?」


 香乃が足元でくるまっていて思わず蹴り飛ばすところだった。


「由芽も一緒に寝るー」


「ダメでしょ!」


「何で~? 昔は一生に寝ていたのに」


 確かにそうだけど、あれはあくまでも小学生。まだ許される。だけど、今は高校生だ。ダメに決まっている。


「昔は昔。もう、今は高校生だよ? 流石にマズいって・・・・」


「え? 佐はマズいことをしようとしているの!?」


「いやしないよ!?」


 わざと大きな声を出して、驚くふりをする香乃。なかなかの策士だ。


「ならいいよね?」


「いやぁ・・・・」


 うん。不幸がどうのこうのの話ではなくて、もう僕が理性を保てるか保てないかの二択だ。今のところ、僕は僕の自制心を信用していない。だから、何としてでも香乃を布団に戻さないと・・・・。


「社会通念上・・・・」


「二人の秘密にすれば解決だよね?」


 答えに詰まる。ニコッと暗闇の中で笑っている香乃に伝える言葉が出てこない。


 ・・・・ダメだ。僕の負けだ。自首がスムーズに行えるよう、電話帳に最寄りの警察署の電話番号を登録しておこう。


「分かったよ。狭いからあまり動かないでね」


 そう言うと、香乃が居ない方を向き、目を閉じる。隣で可愛い声で嬉しそうに叫んでいる人がいるけど、完全に無視だ。そうしないと、僕がどうするか分からない。

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