第21話 香乃一族

「佐!? どうしたの!?」


 抱えられるように香乃の家へと入ると、香乃が血相を変えて僕の方へと走ってくる。


「コケただけだから大丈夫だよ」


 適当に言い訳をするが、多分香乃は気付いている。だから目に涙を浮かべている。


「佐くん・・・・。喧嘩は学生の特権だからな!!!!」


「アハハ・・・」


 香乃の父親がガハハハッと笑いながら、二階に上がってゆく。流石、香乃一族だ。


 香乃一族を久しぶりに見たが、何も変わっていなくてあの時代から時が止まっているようだ。


「そんなこと言わない!! ほら、由芽は手当をしてあげなさい!!!!」


 香乃の母親が強い口調で父親に良い、娘に命令する。


「うん・・・・」


 元気の欠片も見えない香乃が消毒液やシップを取り出す。


「ちゃんと、教えてね」


 そうこそっと僕に耳うちする香乃。やっぱり逃れることは出来ないか・・・・。


 それからお風呂を貸してもらい、汚れた体を洗い流す。傷から痛みが沁みるが、我慢できない程ではない。


 風呂から上がると、目の前には僕が数年前に使っていたパンツとパジャマが置いてあった。


 ・・・・こんなのよくあったな。小学生の頃、何度も泊まりにきていたとはいえ、もうあれから何年も経過している。


 何とかパジャマを引き伸ばし、着ることが出来た。大して成長していないということなのか。僕、一応成長期なんだけどなぁ。


 脱衣所から出ると、香乃の母親にお礼を言う。


「ありがとうございます。助かりました」


 本当に助かった。もし、あのまま道に座っていたら確実に風邪をひいていただろう。


「いいのよ~。久しぶりに家に来てくれて嬉しいし! ほら、ご飯を食べなさい。残り物だけど勘弁してね」


 そう言って目の前に肉じゃがを出される。


 一口食べると、懐かしさが身を襲う。思わず、涙が出てくる。


「おお! 涙が出る程美味しい!?」


「・・・・はい! 美味しいですよ!」


 もう、恥ずかしいとかはどうでも良い。しっかりと、感想を伝える。


 家庭料理なんてここ数年食べていなかった。分からない。懐かしさなのか、美味しさなのか。何で涙が止まらないのか分からない。


「・・・・ずっと家に住んでくれても大丈夫だからね」


 そう言って僕の背中を撫でる香乃の母親に感謝を抱く。だが、そんなことは絶対ない。僕はそこまで自分に甘くない。僕の不幸にこの家族を巻き込むわけにはいかない。


 その事を考えると、涙は止まった。一瞬で冷静に戻り、客観的にこの状況を見ることが出来るようになった。


 これは非常にまずい。ここで香乃の家に泊まってしまうと、香乃により不幸が降りてくる可能性が高い。


 何せ、僕にとっての不幸は香乃の不幸なのだから。


 完食すると、帰ろうと用意する。


「ダメ。ほら、由芽の部屋に行ってあげなさい」


 洗い物をしている香乃の母親に見つかり、帰路を阻まれる。


「あれは私たちじゃどうにも出来ないから」


「あ、何しても良いようにちゃんと部屋には行かないから安心してね!」


「何にもしません!!!!」


 やめてくれ。それ、本人の母親に言われるのは精神的ダメージがクリティカルレベルだ。

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