第11話 再来

 宮本ならぬ苗村先輩が椅子に座り、本を読み始める。


「・・・・そういえば、この部活って何をしてるんですか?」


 文芸部、どの学校にもある程のポピュラーな部活だろう。だが、一体何をしているのか。部員ながら部活動を知らない。


「え? 何もしていないよ?」


「うん」


 苗村先輩は本から目を離し、本居さんは学校の課題をしながら答える。


「・・・・だそうだ、香乃」


「良いんだよ! 佐と遊べるから!」


「俺は来ないぞ?」


「えー!! 酷い!」


 ついさっき香乃に言ったことなのにもう忘れられているのか。酷いのはどっちだ?


「あ、でもたまに部活動をするかな~」


 何やら思いついたように話す先輩。


「ほら、文集をたまに作ってるんだ~」


 そう言って本棚から薄い本を取り出す。・・・・表現方法に語弊があるかも知れないが、気にしないで欲しい。


「なりほど」


 知らなかった。いろいろ知らないところでやってるんですね。


「ちなみに、文集を作る時には神崎くんも手伝ってもらうからね~」


「・・・・やりたくないです」


 これが同学年の人なら、約束と違うだろとストレートに言うが、彼女は先輩だ。


「宮本・・・・だっけ?」


「はい、やります。苗村先輩」


 恐ろしい人だな!? 僕、もしかして痛恨のミスをした?


「それで、いつ作るんですか?」


 一応聞いておく。やる気は出ないけどね。


「ん、明日からだよ~」


「・・・・」


 これわざとやってない?


「あー、佐は残念だね! うん、非常に悲しいねー!」


 ニコニコと先輩の方を向きながら棒読みする香乃を見て、確信する。嵌められました。


「明日からも来てね」


 あぁ、本居さんもですか。ジッと見てくるその目には笑みを感じられる。


「・・・・考えときます」


 それだけ言って部室を去ろうとする。


「それじゃ、由芽も帰るんで! また明日!」


 一人で帰ろうとしたが、香乃がそうさせてくれない。


 最終下校時刻まではまだまだ時間があるが、既に周りは暗くなっている。階段を下りていると、未来が僕を襲う。


「・・・・佐?」


「ちょっと待って・・・・」


 視界が暗くなる前に壁へ体を預ける。


 ・・・・また通学路か。そして、香乃。この前と同じ状況だ。


 ただ、今回の場所は香乃の家の近く。もう家の灯りが見えている。


 香乃は歩き続けるが、家に辿り着く前に香乃が足を止める。いや、止められた・・・・? 暗闇でよく前が見えない。目を凝らし、暗闇を見つめる。アイツが浮かび上がる。


 嫌がる香乃が見えた瞬間に、僕は未来から今へと戻った。


 そうか。嫌な噂は聞いていたが、そこまでする奴だとは思わなかったよ。模範生徒は飾りだったって訳ですか。


「大丈夫?佐・・・・」


 心配そうに香乃は僕の顔を見る。


「うん。大丈夫だよ」


「だけど、よく聞いてね」


 僕は守る。今回こそ、完全に未来を変えてみせる。


 頷く香乃の尻目に、僕は周りを見渡し、誰もいないことを確認する。


「香乃、このままだと襲われるよ」


「・・・・未来?」


「うん。僕を信じてくれ」


 頼む。それだけで、僕は簡単に運命を変えることが出来る。


 信じる。この言葉は重い。”それだけで”と言ったが、そんなもので表現できるものではない。


 だが、香乃は僕を信じる言ってくれた。


 香乃が口を開くまでが遅く感じる。


 信じてもらえないかもしれない。また、あの繰り返しをしてしまうかもしれない。


 嫌な感じが身を襲う。


 だが、香乃はこう口を開いた。


「信じるよ」

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