第12話 不審は一段と
その言葉は僕に安堵と別の未来をもたらした。
いける。香乃さえ信じてくれれば僕は未来を変えることが出来る。
「ありがとう。本当に・・・・ありがとう」
香乃は僕の手を取る。
「佐。由芽は佐をずーと信じるからね」
その言葉は僕が聞きたかった言葉だった。僕が三年前から聞きたかった言葉だった。涙が出そうになるが、今はまだ流す訳にはいかない。全てをクリアしてから流すべきだ。
「ありがとう。それじゃ、話すね」
香乃を連れて、話しが出来るような場所を探す。
未来をこれまで変えられなかった理由は明らかだ。それは僕しか動けなかったから。だから、第三者が絡む未来が発生すると僕は傍観者になるしかなかった。
だが、今は違う。
僕は香乃の行動を変えることが出来る。
最終下校時刻が迫っている。人気のない廊下に置いてある椅子に僕たちは腰を下ろす。
「佐。説明して」
真剣な眼差しで香乃が僕を見る。
僕は説明する。未来を、香乃に聞かせる。
當間光輝は成績優秀、素行両行な模範生徒だ。この学校に今だ数か月しかいない僕でも知っている。だが、流れる噂には暗いものも含まれていた。暗い、いや真っ黒なものだ。
恐喝、暴行。加えた相手は去年までの彼女。
だが、それが「事実」ではなく「噂」として流れているのは当事者が居ないからだ。
當間光輝の元カノは高校一年生の終わり頃に転校しているのである。政治家である當間光輝の父親が揉み消したから、なんて噂されることも少なくはない。
人との関わりを持たないようにしてきた僕はこれ以上を知らない。
ともかく、當間光輝とはそんな噂も存在する生徒なのだ。
そんな彼は夜道に香乃を待ち伏せ、香乃の手を掴んだ。
そこからは分からない。だが、香乃が嫌がっていたところを見ると、良いことではないのだろう。
黒い噂がある分、未来を怖く感じる。
僕は香乃に全てを伝える。これは今日ではないかもしれないこと。だが、近い未来にこの事件は確実に起こることを。
「・・・・そういえば、光輝先輩怖かった」
右腕に巻かれている包帯を見つめながら、思い出したように香乃が口を開く。
「何かあったのか?」
「一緒に帰るだけのはずだったのに、家に連れてかれそうになった」
「・・・・そうか」
「うん。逃げてきたけど」
あの日、そういうことが起きていたのか。僕は何も知らなかった。
だが、逃げるという選択は正しかったと思う。・・・・逃げてきた?
何で。何で、事故の瞬間を當間光輝は見ていたんだ?
當間光輝は香乃の後を追いかけてきたのか?
もしかしたら、彼は僕が想像している以上の黒さを抱えているかもしれない。
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