第10話 ジェンガ部

 それから二人は熱きジェンガの戦いを始めた。


「だーかーら!!!! 最初に下抜くのやめてよぉぉぉぉ!!!」


「勝利のため。仕方ないわ」


「ズルいよ!!!!! 佐!!! 助けて!!!!」


 いや、多分それは正攻法だぞ。多分他人に抜く位置を文句つける方がズルいと思う。


「ほら、早く抜いて」


 勝ちを確信し、本居さんは香乃に促す。


「・・・・・ああああ!!!! 倒れた!!!」


 まだ数回しか抜いていない塔は音を立てて崩れ始める。ん? 香乃、ジェンガ弱くない?


「もう一回だよ! ほら、組立てよ!!!!」


 香乃が床に散らばった積み木を拾いながら、めげずに勝負を挑む。


「いいわよ。だけど、何回やっても結果は見えてるわ」


「姫花ちゃん酷い!!!!」


「不変の事実だわ」


「あー!! 言ったね!? 次負けたら何でもしてもらうからね!!!」


 ジェンガで人はここまで熱くなれるのか。ジェンガに人類の可能性を感じてしまった。


「良いわよ。でも、弱すぎるから神崎くんも一緒にやりましょ」


「佐! 一緒に姫花ちゃんを泣かそうよ!」


 言葉だけを聞くとイジメに聞こえるな。ま、さっきからサンドバッグにされているのは香乃なのだが。


「分かった。先輩が来るまでなら」


「よしっ!!」


 もはや勝ったようにガッツポーズをする香乃。僕をジェンガのプロ選手だと思っているのだろうか。


「はい。良いよ、神崎くん」


 ジェンガを始める。香乃はスポーツ選手のように瞑想し始め、本居さんは王者の風格を纏っている。


 ・・・・たかが遊びに何でここまで熱くなれるのか。ため息を僕はこぼす。






「・・・・・・・・もう一回!!! 頼む、もう一回だけチャンスを!!!!」


 滅茶苦茶楽しかった。


「佐ぅ~。弱いねぇ!!!!!」


 クソッ、この幼馴染め! 僕が弱いことを良いことに煽ってきた!


「・・・・弱すぎるわ」


 ため息をこぼすのは本居さん。だが、その目は完全に笑っている。あ、ダメだこれ。どんなことよりも悔しい。


 意外とジェンガって難しい。さっきまで見ていた時と、実際にやるとでは全く違う。三週目くらいで塔は揺れ始め、重心は捉えることが難しくなる。どうやら奥が深い遊びのようだ・・・・。


 久しぶりに遊び、楽しくなっている自分がいる。心の底で誰かが何かを言っているが、それは抑え込まれる。



 ドアが開き、久しぶりに見る人が入ってきた。


「あら、これが噂の新入部員さん?」


「はいっ! ジェンガ、でなくて文芸部に入部しました香乃由芽です!!」


 積み木を握りしめ、香乃はピンと背筋を伸ばしながら先輩へと挨拶をする。恰好は一人前のジェンガ部員だ。


「よろしく~!」


 そう言って手を振る先輩。


「あ、神崎くんも久しぶり~。もしかして、幽霊部員を卒業する気になった?」


「いや、香乃の付き添いです」


「あら。友達なの?」


「「幼馴染です」」


 声が被る。香乃がニヤリと笑いかける。全く、人が喋っている最中は静かにして欲しいものだ。


「そうなんだ~。でもホント久しぶりだね! 私の名前、忘れていたんじゃない?」


 ・・・・ヤバい。バレてしまったか。


 そう。覚えていない。会話をしないし、そもそも出会わない。そんな人の名前を覚えているはず訳ないじゃないか。でも確か・・・・。


「・・・・宮本先輩?」


「・・・・苗村雫だよ」


「・・・・」


 はい。ごめんなさい。一文字も被りませんでした。

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