第9話 部室へ

 当たる気しかしない予感で休憩時間を迎える。


「由芽、佐と同じ部活に入る!」


 休憩時間を迎えると、直ぐに香乃が僕の机へとやってくる。


「そうかぁ・・・・」


 全く予想を裏切らない。


「まぁ良いと思うよ」


 僕は部活に行く気がないし、正直なところ関係がない。あの先輩も新しい部員が入ったということで喜ぶだろう。


「でしょ! 今から入部届を取ってくるねー!」


 そう言って風を残し、僕の前から走り去った。


 クラスメイトからの視線が痛い。浮いてる扱いをされている僕がクラスの人気者と話しているところは見物に値するのだろう。僕と香乃が幼馴染ということを知っている人は意外にも少ない。香乃の友人くらいだと思う。


 視線に耐えるように仮眠するふりをする。ほら、よくいるでしょ? 寝てないのに寝ているふりををするクラスメイト。そう、僕はまさに今その状態だ。



 放課後になると、大人しく未来に従う。


「ほら! 行くよ!」


 行動力の塊を持っている香乃は今日中に全ての手続きをしたらしい。退部から入部まで。迅速過ぎる行動でサッカー部の顧問も驚いたことだろう。


「今日だけだぞ?」


 念のためにもう一度、確認を香乃にとる。今日は挨拶に行きたいらしい。一人では恥ずかしいから、僕を巻き込みたいということだ。


「うん!!!!」


 満開の笑顔で僕の手を香乃は引く。あぁ、この光景。既視感を覚える。


 階段には夕陽が差し込む。僕は未来を現実とした。


 文芸部、と書かれた部屋を前にする。


「こんにちわ!!!!!」


 香乃が躊躇なく扉を開け、部室を露にする。


「・・・・誰?」


 ですよね。ホント、ごめんなさい。幽霊部員と新入部員がお邪魔します。


「僕は一応、部員。今日は新入部員を連れて来た」


 一応、を強調して椅子に座って一人ジェンガをしている少女に説明する。ん? ジェンガって一人でするものだっけ・・・・。


「そう。部長はあと少しで来るわ」


「あ、分かった」


 部室の端に置いてある椅子に座る。遠慮というものを知らない香乃は興味津々にジェンガを覗く。


「ジェンガ、一緒にやろうよ!」


「うん」


 部室にいた少女はコクリと頷き、香乃の提案に乗る。そういえば、この人がもう一人の部員なのか。今更ながら、部活のメンバーを全員知ることとなった。香乃と同じ程の背丈だが、恐らく性格は正反対だろう。悪口ではないけど、まさに文芸部って子だ。と、いうか同じ学年なのに一度も面識がない。こんな子が居るとは知らなかった。


「ところで名前は何? 私は香乃由芽! 由芽って呼んでね!」


 香乃が彼女に名前を問う。・・・・他クラスとの交流も深い香乃も知らないのか。意外だ。


「私は本居姫花」


「よろしくね!!!!」


「うん」


 そう言って僕の方を見る。


「あなたは?」


「あ、神崎佐です」


「分かった」


 うんうん、と頷いてジェンガを組み立てる。


「ごめんね! 佐はちょっとシャイボーイなんだ!」


「そうなのね」


 香乃が余計なことを言う。まぁ、どう思われても構わない。僕がこの部室に来るのはこれで最後だから。

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