第8話 思い返す
「・・・・それで?」
香乃、部活を辞めたらしいです。
学校へ一日ぶりに来た香乃は痛々しい姿で僕の机の前へとやってきた。
「うん! 辞めた!」
「いや、だからどうした。僕はなんと言えば良いの?」
「んー、なんだろ」
そう言って首を傾げる。うん、香乃はもう少しものを考えて言えば良いと思う。
「由芽! 無事だったの!?」
教室に入ってきた足立が香乃の姿を見て彼女に飛びつく。
「うんっ! 無事だよっ!」
そこから段々とクラスメイトが現れ始め、香乃の周りには人だかりが出来始める。流石、人気者。
そうか。部活を辞めたのか。
特に感想はないが、サッカー部のマネージャーは香乃に似合っていたと思う。世話好きで愛嬌があり、運動神経は女子の中では間違いなく最高峰。勿体ないことをしたものだ。
授業が始まると、あの感覚が身を襲う。
僕は未来を見る。
時は放課後。僕は香乃に引っ張られ、学校の階段を上る。
・・・・それだけか。
手には水分を感じる。無意識に身震いをする。どうやら恐怖を感じていたようだ。
未来に香乃が出てくることの恐れ。香乃を不幸に巻き込むことの恐れ。
香乃は不幸になっても良い、と言っていた。だけど僕はそんなことを自分に許さない。
だが、香乃は僕と一緒にいることが出来ないのも不幸だと言った。
だから香乃に接する態度を僕は緩めた。
僕は甘えている。香乃が僕を必要としてくれているこの状況に甘えている。
その甘えを自覚しているからこそ、未来が僕達に歯をむく瞬間を恐れている。
今回はこれだけで良かった、と胸をなでおろす。
それにしても何なのだろう。あの階段は四階へと続いていた。この学校の四階には美術室や調理室、音楽室くらいしかない。少なくとも、僕達が放課後に利用するような場所は存在しない。あ、文芸部の部室があそこだっけ。
文芸部。入部してから一度も行っていない。と、いうか行かないでも良いと先輩に直々に言われている。
あれは四月。多くの部活が部員募集のビラを校門前にて配っていた時期だ。
僕はこの体質上、人を避けたかった。人との関わりをあまり持ちたくなかった。だから、部活なんて眼中にない。部活に入り、そこの部員と仲良くなってしまったら僕が不幸にしてしまう。
「(・・・・でも、肩書きだけは欲しかったな)」
帰宅部だと、推薦入試の時にマイナスになり得る。
大学入試のことを考えながら、ビラを受け取らず校門をくぐろうとした。
「そこの君~、部活に来なくていいから入ってくれない?」
そう言って僕を引き留めたのは柔和な笑顔の持ち主だった。
そのセリフだけを聞くと僕が願ってもいない条件。
「どういうことですか?」
「うん。私の部活、今年誰も入らなかったら1人で廃部になるんだ」
この千住高校の部活は最低限三人の部員が必要らしい。どうやら一人は新入部員が決まっているらしく、残りの一人を探しているらしい。
「それなら良いですよ。だけど、絶対に行きませんからね?」
僕の事情と恐ろしいほどマッチしている。これは逃す訳にはいかない。
「いいよ~! だけど、いつでも歓迎だからね!」
そういう訳で僕は文芸部所属の公認幽霊部員となった。
思い返すと懐かしく感じる。
あの先輩は元気だろうか。
・・・・ん? 香乃、部活辞めたよな?
・・・・・・んんん? 今は無所属だよな???
嫌な予感がする。
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