第7話 彼女の決断

「はい。何でしょうか」


 非の打ち所がない容姿。人はこれをイケメンと言うのだろう。


「何であの場に君が居たのかな?」


 優しく問いかけてくるが、目は笑っていない。


 そうか。見られていたのか。


「たまたまですよ。意図したことではないです」


「それにしてはずっとあそこで待っていたよね」


「・・・・」


 帰ってきた答えは想定を越していた。どうやら完全に僕の待ち伏せがバレていたらしい。どうするか。


 答える言葉がない。未来を知っていたなんて戯言にしか聞こえないだろう。


 だが、ふと考える。あの場に彼は間違いなくいなかった。そう、倒れた香乃の周りにである。救急車に乗り込むまで僕はその場にいたが、彼の姿は一度も見かけていない。いや、僕のあの時は極度に視野が狭かった。香乃のことしか見えていなかった。それ故に、彼を見落としていた可能性もある。


 ただ、会話を変えるには文句のない材料だ。


「ところで先輩は・・・・」


「當間光輝。まだ名前を伝えてなかったね」


 あぁ。そうか、あなたが當間先輩なのですか。僕もこの千住高校の一員だ。彼の名前は噂でよく聞く。二年ながらサッカー部のエースであり、父親が政治家。この高校では有名人だ。


「當間先輩はあの場に居たってことですよね」


「うん。そうだね」


 彼はそう肯定する。


「それなら何故、香乃の元に駆け寄らなかったのですか? ”一緒に帰る程の仲なのに”」


 無意識に最後のフレーズを強調してしまう。


「必要がないからだよ」


 肩をすくめて彼は理解不能なことを吐く。


「それに、君が思っているような仲ではないから安心してね」


 発言とは正反対の雰囲気を纏った目線を僕に送り、彼はその場を立ち去る。


 どうやら無事に追い返すことが出来たようだ。一件落着ってところだろう。


 ・・・・そういえば、香乃は何で先輩と一緒に帰っていたのだろう。香乃は少なからず好意をあの先輩に抱いていると思った。だけど、昨日は僕に向かって好意をぶつけた。


 部活なんて一切行っていない僕は分からないけど、恐らく部活の先輩からの頼み事は断れないのだろう。大変だな、部活って。


 疑問を自己解決して、僕は菓子パン選びに脳をフル回転させ始めた。




 病室から外を眺める。退屈だなぁ。


 事故に遭ったのが一日前だとは信じられない。もうちょっと莫大な時間が流れていた気がする。


 昨日、當間先輩と途中まで一緒に帰っていたが、そっからは逃げるように1人で自宅への帰路を辿っていた。


 だって明らかに変だったし。一緒に帰るだけなら我慢するけど、當間先輩の家に行くなんて考えられない。由芽には心に決めた佐がいるのだから。


 だけど、逃げてきたせいで嫌な関係になったなぁー・・・・・。


「もう、辞めちゃうか」


 そう呟く。佐に振り向いてもらうためにサッカー部のマネージャーなんて出会いの多そうなことをやっていた。だけど、佐に言ってしまったからもう必要ないよね。


「よし! 辞めよう!!」


 即断即決! 由芽が迷ったら由芽じゃない!


 というか、サッカーって意味わからなかったし! オフサイドとか理解できないし!!!




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