第4話 未来が今へと

未来の出来事に焦りながら、僕は放課後まで時を過ごした。


六時間目が終了すると、鞄に荷物をしまいながら香乃の方に目を向ける。


しかし、席に香乃はおらず、空白の椅子しか目に映らない。


しまったな。目を離すべきじゃなかった。


慌てて廊下を走る。あの見知らぬ先輩と香乃はどこにいる。下駄箱か? 校門か? 走りながら考える。


いや、このまま探しても見つからなかった時の場合を考えて、予め現場に向かう方が良い。未来の出来事は”必ず”そこで起きるのだから。


あの時に見た未来は鮮明に覚えている。僕や、香乃が普段通る道にある交差点ではない。どちらかというと、それぞれの家とは反対方向に位置している。


まだ生徒が少ない校門をくぐり、目的地に向けて足を向ける。あの未来は夕暮れの中で起きていた。まだ時間はある。香乃をどう救うかじっくりと考えよう。


冷静になっているつもりだが、手は震えている。何度も深呼吸をし、落ち着かせる。


さて、どうしよう。あの未来では香乃は1人だった。そして、交差点で轢かれている。香乃が信号無視をしている、あるいは運転手が信号を無視しているかのどちらかなのだろう。僕が変えることのできる未来は、香乃の行動だけだ。つまり、香乃に横断歩道を渡らせなければ良い。


ものは言いようだ。簡単に見える解決策だが、この行動を変えるのが非常に難しい。


僕の見る未来はほとんど確定しているようなものだ。逃れることが出来ない運命。未来を完全に変えることが出来るのは奇跡と言っていいほどの確率であり、僕はそれを数えるほどしか経験していない。


香乃をどうやって止めるか。考える限り、強引に手を引っ張るしかない気がする。平均身長で平均体重の僕でも、小さな香乃をその場に留めることは容易だ。それに、生半可な行為では未来は変えられない。何よりも確実性を僕は重視する。


交差点に到着し、柵に体を預ける。


夕陽が道路標識に反射する。


あとは香乃を待つだけだ。





「今日じゃなかったのかな」


地面に置いていた鞄を手に取る。地上に残るオレンジの光は僅かとなっている。


座っていた柵から体をおこし、背伸びをする。そして、前へと歩き出す。


良くあることだ。明日に向けて用意をしよう、と思った刹那。遠くではあるが香乃を視認した。


・・・・どうやら、今日らしい。


香乃の方へと向かって歩みだす。横断歩道を渡り、香乃の前へと立ちはだかる。


「佐?」


香乃が不思議そうに僕へと声を掛ける。


「うん。僕だ」


「何でこんなところにいるの?」


「たまたまだよ」


「そう?」


疑問が抜けきれない顔をしながら僕の顔を見る。


「私、あっちに用があるんだけど。どいてくれない?」


「ダメだ」


香乃が通り抜けようとするが、それを僕は塞ぐ。


「・・・・その雰囲気。何かおかしいよ?」


「そうか」


何かを感じ取ったのだろう。だが、感じ取られたところで僕の行動は変わらない。


「どいて」


「嫌だ」


苛立ちを香乃の声から感じる。


信号機が青になったと音が伝える。


「とにかく、ここにいて」


二度と後悔はしない。香乃の肩を掴む。


しかし、僕の手は空を切った。


慌てて振り返ると、香乃は既に走っている。


「待てッッ・・・・・!!!!」


トラックが見える。


体は動き出す。だが、既に時は遅かった。


急ブレーキの音がする。悲鳴が聞こえる。


静寂が訪れる。


僕はその場へと崩れ落ちる。

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