第5話 悩みの種

 プシュー


「吉祥寺〜吉祥寺〜お忘れ物にご注意下さい」


「はー、疲れた。あと、4日も仕事があるのか。誰か祝日を作ってくれないか…」


「本日発売の、旅人のリゲル!入荷してまーす!」


 書店の店員が、外に出て新刊の宣伝をしていた。


「あ、忘れていた。ありがとな、お兄さん」


 それにしても、すごい人気だ。アニメ化も、時間の問題だな。


「一冊、下さい」



 カンカンカンカン…タッ


「着いた…俺の楽園」


 この景色を見ると、疲れが一気に落ちる。そんないつも通りの一本道を歩く。


 ガチャ


「おかえり!俺!」


 帰ったらすぐにエビドリアをレンジに、その間に着替えて、顔洗って…完璧!これが帰宅後のルーティン。


「さーて、なにやろうかな…。ん、いや、旅人のリゲルを見るか」


 この漫画はすごい。


 言わゆる、ラブコメってやつなんだけど、登場人物が際立っていて、それでいてリアル!なんか本当に恋している気分になる…そんな作品。俺は、この漫画で恋愛している気分を味わっているわけだ…。ん…?この傾向まずくね。


「今回も面白かったな!最後のシーンやばいな…鳥肌たった。次は、いつ……え?」


 ―当分の間、連載休止とさせて頂きます―


 は?えっ、ちょっと待ってくれよ。俺の青春は?陽子は?この後、どうなるの?


「最悪だ…」


 月曜から、なにもうまくいかないな。俺が何したんだ。飲んでなきゃやってられないな。お酒、お酒…。から…?


「最悪だ…」


 タラタララーン


 いらっしゃいませー!!


 ん?飯田さんは今日も出勤しているんだな。お互い大変だな。


「ビールでいいか…これ、下さい」


「あ、ありがとうございます。袋は…」


「大丈夫です」


「かしこまりました…170円です」


「はい…」


 ガサゴソ


「あ、あの…どうかされましたか?」


「え?」


「元気が無いように見受けられたので…」


「なんでもないですよ」


「…そうですか」


 チャリン


 ありがとうございましたー!!


 タンタララーン


 うー、さぶっ!肉まん、買えば良かったな…。


「まぁ、とりあえず」


 ごくごくごくごく


「ぷは!最高!!」


 本当は酒が好きなんだ。でも、だからこそ静かに飲みたいんだよな。


「あっ、あのっ!!」


 振り返ると、飯田さんが追いかけてきていた。


「えと…飯田さん…どうしたの?お釣り忘れていた?」


「いえ…違うんです…その…、須浦さんが悩んでいるの…私のせいかもしれないんです…」


「え…?それって、どういう…」


「おーい!飯田さーん!なにしてるの!?」


「あっ、店長!すぐ戻ります!」


「…って仕事中か。というか、悩みの種が飯田さんなことないよ。出会ったばかりで接点もないんだし」


「そ…そうですね。私も変に勘違いしていたのかもしれません…すみません」


「うん、とりあえず仕事戻ろう」


「はい…ってあれ、須浦さんまでなんで?」


「肉まん、1つ」


「ふふ、ありがとうございます」


 タンタララーン


 ありがとうございましたー!


 モグモグ


「寒い日の肉まんは、罪深いな」


 飯田さんどういうつもりだったんだろう。飯田さんなりに、励ましてくれようとしたんだろうか?……考えたって分かるはずないか。


「…うま」

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