第4話 生活の輪郭

 ガチャガチャ


「はー…眠い。昨日も遅くまでゲームしちまった。…ったくオモ、ヨチ、チム※のせいだな」

 ※ゲーム内のフレンドネーム


 月曜日が来てしまった。俺が一番嫌いな曜日だ。いや、きっと嫌いな曜日ランキング一位ではないだろうか。


「今日からまた仕事か。でも、今日は旅人のリゲルの発売日だったな。帰りに買って帰るか」


 ガタンゴトン


「次は〜新宿〜新宿〜」


 たくさんの人でひしめき合い、身動きが取れない。初めて東京に来た時は驚いたが、もう慣れたもんだな。


 バタッ


「あっ!すみません! 」


 近くに立っていた女子高生が、電車の揺れで俺にぶつかった。


「いえ、こちらこそすみません」


 これだけは、まだ慣れないな。


 -会社到着-


「貞晴!」


「うわっ、なんだ!結城か…脅かすなよ」


 こいつは、難波結城。幼なじみで、幼稚園から会社まで同じという、親ゆ…いや悪友だ。


「月曜から眠たそうな顔してるな!」


「月曜だから眠たいんだ。お前が元気すぎるんだよ」


「どうせゲームばっかりしてたんだろ?俺みたいに、ジムに行ってだな…」


「今度、見学こないか…だろ?毎週、同じこと言いやがって、一語一句真似できるぞ」


「けっ!しょっぱいやつだよ、お前は!だから、お前には彼女どころか、女の影さえ拝めないんだよ」


「うるせーな、俺にだって最近…」


 ――私がここに住んでることも内緒にしておいてもらえますか


「ん?最近なんだよ?」


「……なんでもない。お前の言う通りだ。でもジムには行かないからな!」


「…っけ、俺は口説き続けるからな!」


 俺の仕事は、経理。


 会社の動きを数値化して、弱点や強みを見い出す仕事…っていえば格好は良いが、業務は地味なことばかりだ。


「あの…須浦さんすみません…。先月の請求書の提出を忘れていて…」


「そうですか、分かりました。報告義務があるので理由だけ教えてもらえますか」


「えっと、出張に行っていたので…」


「分かりましたが、次回からは、他の方に頼んで提出をお願いします」


「はい、すみませんでした…!」


 トコトコ


「大丈夫だった?」


「まあね。何が報告義務よ、気持ち悪っ。こっちは、一生懸命売上作ってんのに」


「ねー、あれが彼氏は、まじ無理!」


「は?想像させないで」


  ははははは


 …まぁ、そんな仕事だ。


「くだらねぇ」


 -18時-


 おつかれっしたー!


 飲みにいこうぜー!行く行く!私達もいい?おーけー!


 これがうちの会社の終業合図みたいなもんだ。


 社会人にもなってこんなノリの会社、何しにきてるんだか…。


「お?貞晴行かねーの?」


「結城か。行かねーよ、月曜から飲みに行くとか無いわ」


「お前、金曜でも来ないだろうが」


「そ、そうだったか?まぁ、酒の良さが分からんからな!」


「お前、給料増えても仲間は減るぞ。たまには顔出せよな」


「…ああ。気が向いたらな」


 とても幼なじみとは思えないだろ?でも、なぜかあいつは、俺のことを気に入っているんだよな。それは良いことなのか、どうなのか。


 考えたって解けない疑問を抱えながら、俺は帰路についた。

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