もしも乙女ゲームの世界で善良な人物しか登場しなかったら?

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妖精の取り替え

【王女side】

初めまして。


私は転生者で、今は王女なんてやっています。

私が転生した世界は前世でハマっていた『ジェミニ王国の二人の王女~精霊のイタズラ~』という、乙女ゲームの世界に転生しました。


今の私は産まれた時に取り替えられた庶民の子供で王族ではありません。ゲームでは我儘王女として『悪役』側をやっている人物だったのです。


5歳になり、家族と髪の色が違う事で影で色々言われている事に気付きました。家族は金髪碧眼なのに、私は銀髪でしたからね。

そして私の家族、国王様や王妃様、そしてお兄様はとても大事にしてくれました。でも本当の家族でない事を転生者である私は『知っている』ので、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。


故に、悪役王女をやるつもりはありませんが、追放されても食っていけるように勉強や夢だった魔法に打ち込みました!


元々才能があったのか、魔術の才能を開花させ、最高クラスの攻撃魔法を覚えました。そして偶々視察に行った所で、龍に襲われていた村を救ったら私の評価が少し変わり、待遇が良くなりました。


「よし!今度は病気に効く薬の研究でもしよう!」


こうして、私の追放されても食っていける手に職を付ける目標に向けて邁進していくのでした。

ただ自分の知らない所で、王国の『守護女神』として確固たる地位を築いている事に気付いていないうっかりさんでしたけどね。



【平民side】

こんにちは。


私は転生者です。この世界の原作ゲームをプレイした事があったのでこの後のストーリーがわかっています。私は妖精にすり替えられた王女という設定で、幼少の頃に珍しい光属性の魔力を顕現させて周りの人々を治癒魔法で癒していたら、王侯貴族の目に止まり、お城に呼ばれて私の出生が明らかになるという話なのですが………


ぶっちゃけ、今の生活が気に入っているので、このまま暮らしたいと思っています。


異世界の平民だと暮らしが貧しいという設定が多いですが、うちの(平民の)家族は道具屋を経営しており、そこそこ裕福なのです。自由な時間もあるし、休日は外で気軽にショッピングも楽しめるくらいには治安も良いので、今更窮屈なお城に戻りたくないと言うのが本音デス。


それに、実家が道具屋(何でも屋)って事で、やっちゃったんだよね♪(テヘペロ)

ファンタジー世界での資産無双の定番!『マヨネーズ』や『リバーシー』など作って販売した所、超儲かって、ここ10年で今では王国1番の商会に成長したのよね♪


「いやー!流石は王国1番の商会の娘さんですね。素晴らしいアイデア商品ですよ!」

「いえいえ、私のアイデアを形にしてくれた職人さんの腕が良いのですよ♪」

「それにしても、畑に肥料?という物を撒くだけで収穫量が増えて、更に安定して育つとは、地方の小さな村など大喜びですよ」

「少しでも生活を豊かにしたいのですから………」


「それは素晴らしいお考えです。儲けた金額の一部を孤児院に寄付して、更に地方の開拓にも投資されているのでしょう?」

「ええ、地方が発展すれば中央から地方に街道の整備の話がでて、国全体が潤うと考えています」

「それは壮大な計画ですね。ぜひとも協力させて頂きたい!」

「はい、よろしくお願い致しますね♪」


よし!商談成立だよ♪

うははは!儲かって儲かって笑いが止まんないよ♪無論、やっかみで襲ってきた盗賊とかいたから護衛の冒険者を雇い、更にお金の力で私兵まで作ったのよね。最近ではお金で爵位を買って男爵になったの。成金って呼ばれても貴族の方が商談が上手くいくようになったし、文句はないよ!


(あれ?善人かな?)


【メインストーリー】


どうしてバレたんだ?平民となった私は貴族にはなったが、それは父が表の顔となって私は裏方を担っていたので、一部の有力者しか顔を知らないはずなのに!

これが、ゲームの強制力って奴なのかしら?


急にお城に父と一緒に指名されて呼ばれた私は混乱していた。これで本当の王女だとバレたら王女様をやらないといけないの?

そういえば、ゲームでは我儘王女って居たけど、この国の王女様って魔術が凄くて龍まで退治するほどの王国の『守護女神』と呼ばれている方よね?

ゲームとやっぱり違うのかな?


私はそう思いながら謁見の間にたどり着いたのだった。中に入ると息を飲む音が聞こえた。


「確かに似ている。いや、そっくりだな……」


誰かの声が聞こえて面を上げると、王様の隣に座っていた王妃様が私とそっくりだった。


『これで役者は揃いましたね』


一瞬、眩い光が立ち込めると、そこに美しい長い緑色の髪を靡かせた女性が現れていた。


「初めまして。私は妖精の女王ティターニアと申します。この度は、我が眷属が許されない愚行を起こしたので集まって頂きました」


美しい妖精の女王は深く頭を下げた。


「実は十数年前に、産まれたばかりのあなた方を、イタズラ好きの小妖精が魔法で取り替えてしまったのです。幼くして実の両親から引き離してしまい本当に申し訳ありませんでした」


国王様と王妃様は難しい顔をしており、少し離れた場所で真っ青な顔で震えている王女様がいた。


「我々も突然の事で戸惑っている。初めて会って王妃にそっくりなそなたが、実の娘であるのは間違いないのであろう。ティターニア様も認めておるしな」


王様は言い難そうに言葉を選んで話している感じがした。その時、王女様が声を挟んだ。


「国王様、発言しても宜しいでしょうか?」


国王は頷いた。


「こちらの御方が実の御子様である事は、容姿を見れば間違いないでしょう。ティターニア様の助言もあります。だから私はこの城を出ていきます」


その言葉に王妃様が立ち上がりました。


「何を言っているの!?私達の娘は貴女よ!」


王妃様は、はっとなって本当の娘を見た。


「………こんな実の娘でもない私に優しくして頂き、ここまで育てて頂きありがとうございました。私は国王様と王妃様、そして王太子様には感謝しかありません。本当にありがとうございました」


「止めるんだ!いつもの様に、お父様やお母様、お兄様と家族として呼んでくれ!」


王女様はポロポロッと涙を流しながら深く頭を下げて言いました。


「本当………に、今まであり……がとう……ございました」


ああっ……この家族は『本当の家族』なんだ。

ここには血は繋がっていても、私こそが部外者なんだ。そう思った。だからこそ私は妖精の女王ティターニアを睨んだ!


「………どうして今になって現れたのですか?」


私の言葉にティターニアは申し訳なさそうにいった。


「こちらにいる『守護女神』と呼ばれている少女は『妖精の愛し子』なのです。穢れなき魂の波長に、多くの妖精が好んで集まります。しかし、平民の両親の所では危険が多く、幸せなれないと考えた一部の小妖精がこの国で1番安全に暮らせる王族の赤ちゃんと交換したのが事の発端でした」


ティターニアの言葉に私はピクピクと怒りで顔が変わりそうなのを必死にこらえた。


「そして、16歳となり成人した事で妖精が自由に見える様なったので、今回の事実を伝えにきました。私のような上位妖精でないと普通の人間には見えませんからね」


最初は謙虚な方だと思った自分を殴ってやりたい。なんて傲慢な方なんだろう?

平民の両親の元で幸せになれないなんて誰が決めた!ふざけるなよ!!!


「それはどうもありがとうございました!」


私はぶっきらぼうにそう答えると、王様達に言った。


「国王様、本日はお会いできて嬉しかったです。そして、私の我儘をお許し下さい」


1度王様の顔をうかがって続けた。


「確かに、産みの親である両親に会えた事は嬉しいです。ただ、十年以上も本当の親と思って育てて頂いたこちらの両親との絆の方が大きいのです!それは、そちらも同じかと思います」


国王は王女様を見て静かに頷いた。


「すまない!私は本当の娘である君より、血の繋がりのない娘の方が大切だと思ってしまっている。…………最低な親ですまない!」


王様は頭を下げた。


「いえ、お互い様です。16年の歳月は長かったのですよ。私も今更王女様なんて務まりませんし、正直無理です!」


私達はお互いに見つめると笑いあった。


「フフフッ、そうだな。無理強いはすまい。しかし、君は紛れもなく私達の娘に違いないのだ。困った事があればいつでも頼って欲しい」

「はい、ありがとうございます」


私はまだ震えている王女様の元へ歩いて行った。


「何を震えているのよ!龍すら倒せる凄腕の魔術師のくせに!」

「あ、あの………私は─」


私は王女様の背中を叩いた。


パチンッ!


「誰がなんと言っても貴女が王女よ!自信を持ちなさい!」

「私は………王女なんかじゃない。貴女の居場所を奪った平民です。でも、お父様、お母様、お兄様と一緒にいたい………です」

『覚悟はしていたの。だから手に職を着けて追い出されても、食べていけるように頑張っていたけど、実際に大好きな家族から追い出されてしまうと思ったら震えと涙が止まらなかったの……』


また王女様は泣き出してしまった。


「ほらほら、泣き止んで」

コソッ

『貴女、転生者でしょう?私もなのよ?』


!?


『今度、お互いの詳しい話しをしましょう♪』

「は、はい!」


どうやらこれで一件落着である!しかし、国王様が言い難そうに言った。


「後の問題は、隣国の王子と王女の婚約の件であるな………」

「王女の婚約?って、婚約者がいるの!?」


それはまずいかも知れない。国同士の婚約は血筋がものを言う。王族の血を入れたくて結婚したのに、平民だったとバレたら戦争になるかも知れないよ!?


「いや、それは余り問題じゃないから安心して欲しい」


ここで王女のお兄さんが口を挟んだ。


「どういうことだ?王族の血を引いていないのは問題だぞ?」

「えっと………あいつは我が妹にベタ惚れで、妹と結婚できるなら廃嫡されても良いと言っているんですよ」


お兄様は頭を掻きながら言った。


「あの、私もジーク様(婚約者)をお慕いしておりますが、家族の迷惑なら婚約破棄でも─」

「それはダメだ!!!!!」


バンッ!!!

と、扉を開けて格好いい金髪碧眼なイケメンが入ってきた。


「僕は君を愛している。何があっても最後まで一緒だ!」


王女の手を取り手の甲にキスを落とした。


「ジーク様…………」


それを見た国王様は兄の方へ詰め寄り首を締めた。


「だ、黙っていたのは謝ります!ただ、あのバカが妹を本気で好きなのは本当なんですよ」


国王様が怒るのは無理ない。王女が平民だったとスキャンダルを隣国へリークするのはリスクがあるからだ。


「国王様、僕の親友を………義兄を許して欲しい」

「義兄って言うな!気持ち悪い!」


そこまで言うか?


「例え平民だったとしても、僕の妻が凄腕の魔術師である事に変わりありません」


隣国では貴族が魔法を使えることがステータスとなっており、高位貴族でも自分の子供が魔法の才能に乏しいと養子を貰うそうだ。


「だから実力のある妻が蔑ろにされる事はありません。もし、嫌であれば僕も平民となって冒険者にでもなって暮らしていきますよ」


どこまで本気か分からなかったが、マジメに答えているのはわかった。


「そうか………我が娘をよろしく頼む………」


娘を嫁にやりたくなさそうな声で言う国王様だった。


私達の話し合いは終わったけれど、妖精の件が終わっていなかった。


「さて、妖精女王ティターニア様には責任を取って頂きましょうかね?」


ティターニアは首を傾げた。


「責任とはどうすればよいのでしょうか?」


私はビシッと言ってやったわ!


「貴女が現れなければ、私達は血が繋がって居なくても幸せに暮らしていられたのよ!それに、平民だと幸せになれないなんて勝手に決めないでちょうだい!私は今の両親に愛情を込めて育てて貰って幸せなんだからね!」


育ての親の両親は涙を流して感動していた。


「だから、二度と『私達』の前に現れないで下さい!」


!?


ここにきて初めてティターニアが慌てた。


「ち、ちょと待って下さい!それは困ります!妖精の愛し子は、我々の癒しであり惹かれる者なのです!それを目の前にいて会うなというのは拷問に近いのですよ!?」


ティターニアが言うには、どうやら妖精は透明なように普通の人間には見えないのだ。だからイタズラなどして存在を知って貰いたくてこんな行動を取るのだという。


極論なところ、寂しいのである!


同じ妖精の仲間が居ても、目の前で見えなくて無視されるのは妖精に取ってストレスであり、その妖精の見える存在は貴重で、過保護になりかまってちゃんになってしまうらしい…………

(それってどうなのよ?)


「すみません。1つ良いでしょうか?」


王女様が提案した。



ヒュ~~~!!!

どーーーーーん!!!!


大きな花火が打ち上がった。


ワイワイ!!!

ガヤガヤ!!!


本日は私達の住む王国で、王国感謝祭が開催されており、盛大に賑わっていた。


「毎年やっているが、今年は例年以上の賑わいだね♪」

「そうだね。お客さんが多いのは良いことだ」


お祭りということで変わり種な商品を扱っている私の商会は大忙しであった。


「やっぱりお祭りにはたこ焼きよね~♪」


またまた前世チートを活かして大繁盛していた。


「それにしても王女様が『あんな提案』をするなんてねー♪」


今年の感謝祭が盛り上がっているのは、ある一角に設けられたコーナーである。


それも、妖精ふれあいコーナー!


妖精は見えないだけで物に触れるのだ。ふれあいコーナーでは、見えないのに触れられている感じがして、物が勝手に動いたり、浮いたりする妖精体験コーナーである。

(あれ?ホラーハウスになってない?)


妖精達が絵の具を被って、見えるように空中で動き廻るショーもあり妖精達も楽しんでいた。


王国の人々が妖精に実際にふれあえる場として、本当に妖精がいると知り、妖精も元々楽しい事が好きなので、両方とも大いに盛り上がったのだった。


「まさか、こんな解決方法があるなんてね」

「私だけじゃないよ?お父様達が協力してくれたからですよ♪」


目の前にはたこ焼きを頬張りながら報告している王女様いた。


「元気そうでなによりだよ」

「えへへ♪たこ焼きお代わり!」


「食べるの早くない!?」

「懐かしいのと美味しいのが悪いの!」


私達は親友となって長い付き合いになっていくのはもう少し先の話しです。






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