第183話 物盗り

 久しぶりにビールを飲んだせいだろうか、ふらつく足でダフネの店に到着した。

「おや、随分と楽しんだようだね。まあ、これだけ稼げればハメも外したくなるだろうさ。ほら金だ。色をつけといてやったから、またうちに持ってくるんだよ」

「ありがとうございます。機会がありましたら利用させてもらいます」


 ここでもカードでなく硬貨が出てきた。ちなみに単位はリドルらしい。

 レアメタルの代金を受け取ったものの、それが適正なのかはまるでわからないが、アタッシュケース二つ分なら、それなりの金額なのだろう。


 俺はアタッシュケースを両手に下げ店を出ようとしたが、重い荷物を持ったせいで余計に足がよろけた。

「一つ持つ」

「チハルすまないな」

 俺と違ってチハルは全く酔った様子がない。同じだけ飲んでいるのに、アンドロイドは酔わないのだろうか。


「そんなにふらついて、危ないから真っ直ぐに船に戻るんだよ。店を出て右手の路地が近道だからね」

「わかりました。ありがとうございます」


 俺たちはダフネに言われたとおり店を出ると右手にある路地を進んでいった。

 そこは人通りのない裏路地だった。

「キャプテン、つけられてる」

「なんだって! チハル急ごう」

 いかにもなアタッシュケースを二つも持っていたから目をつけられたか。


「おっと、そんなに急ぎなさんな」

 ガラの悪い男が三人現れて行手を塞いだ。後ろからは仲間だと思われる男たちが二人、全部で五人か。

「何の用か知らんが、そこをどいてくれ」

「そこの嬢ちゃんと有金全て置いていけ」

 こいつら強盗団か。思ったより物騒なところだったんだな。

「嫌だと言ったら」

「死んでもらうだけだ。もっとも、素直に頷いても殺すけどな。お前らやれ!」

 相手がやる気では仕方がない。俺は銃を抜くが、それより早く前方で道を塞いでいた三人のうち両脇の二人が銃を構えて撃ってきた。弾丸がシールドに弾かれ当たることはないが、生きた心地がしない。こちらも負けじと打ち返すが、こちらの攻撃も相手のシールドに弾かれる。


「おい、魔力撹乱薬を飲ませたんじゃないのか!」

「へい。ビールに混ぜてたっぷり飲ませましたぜ」

 ん? ビールに何か薬を混ぜられていたのか。随分と準備周到だな。名前からして魔力が使えなくなる薬だろうが、あいにく俺は魔道具に魔力が込められないからな。俺の使っている魔道具は魔導カートリッジ式だ。俺が魔力を使えなくなっても関係ない。


「仕方がねえ。殺すのは諦めて拘束しろ」

 男たちは投網のような網を投げてきた。

 俺はナイフを取り出して切り裂こうとしたがまるで歯が立たない。

「魔道具だからな。足掻いても無駄だ」

 それなら、俺が魔力を込めれば壊せるはず。

 俺は魔力を込めようとしたがうまくいかない。そうか、魔力撹乱剤が効いているのか。

 くっそう。身動きが取れない。このままでは持ち逃げされる。


「それじゃあ、嬢ちゃんと金はもらって行くぜ」

 嬢ちゃん? そういえば、チハルはどうした。確か後ろの敵を警戒していたはず。後ろを確認するとチハルは倒れていた。俺と違って網で捕まっているわけではないが、意識はあるようだが動くことができないようだ。チハルもシールドを張っていただろうにどうしたんだ。


「こりゃ、アンドロイド用のジャーマーが効くなんて、本当にアンドロイドだったのかよ」

 後ろでメガホンのような物を持った男が、うつ伏せに倒れているチハルを足で蹴って仰向けにしている。

「おい、大事な商品なんだ、雑に扱うな」

「すいやせん」

「男が動けないうちにさっさとずらかるぞ」

「へい」


 俺が網から抜け出せたのは奴らが逃げてから3分後のことだった。逃げた先を追ってみたが、表通りに出てから先の行方はわからなかった。


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