第184話 警察

 強盗団に金を奪われ、その上チハルまで攫われてしまった。表通りまで追って出てきたものの、その後の行方がわからない。誰彼構わず聞いて回ったが、誰もが関わりたくないという態度が明らかで、知らないという返事が返ってきた。

 なんとか犯人たちを見つけ出そうと街をさまよっていると、警察署が目に入った。俺は迷わずそこに駆け込んだ。


「助けてください! 強盗団に襲われてお金を奪われた上にチハルを連れ去られました」

「はいはい、強盗ね。ここじゃよくあることだから落ち着いて、まずは中に入って、詳しい話を聞くから」

 俺は警察署の中に通された。

「じゃあ、そこに座ってね」

 椅子を勧められて俺はそこに座る。

「それでなにがあったのかな」

「ですから、強盗団に襲われて」

 俺はことの経緯を早口で捲し立てた。

「ということで早くチハルを助けてください」

「うーん。早口すぎて調書が取れないよ。最初からゆっくりお願いできるかな」

 こんなことをしているうちにチハルがどこか遠くへ連れ去られてしまうかもしれない。はやる心を抑えて今度はゆっくり経緯を話した。


「はい、ご苦労様」

「それじゃあ早く捜査を」

「君、酔ってるでしょ」

「はい、強盗団に襲われる前にビールを飲んでましたから」

「そうなんだ。じゃあもう一度最初から説明してもらえるかな」

「どうしてです。チハルは攫われたんですよ。誘拐事件でしょ。急いでください!」

「まあ、まあ、お茶でも飲んで落ち着いたらどうかな」

 チハルが攫われたのだ。これが落ち着いていられるわけがない。

「それに、捜査をするなら、まず、被害届を出してもらわないと」

「ヒトが攫われているんですよ。なんでそんなに呑気なんですか」

「ヒトが攫われったて、アンドロイドはヒトではないでしょう。つまり、これは誘拐事件ではなく、窃盗事件だから」

「これがただの窃盗事件! ……」

 あれ? ここに来てから俺はチハルがアンドロイドと言っただろうか。酔っているとはいえ、いくら思い返しても言った覚えがない。それなのに警察官はなんでチハルがアンドロイドと知っている。

 それに、このやる気のなさと、無駄に時間を長引かせようとする態度はなんだ。

 もしかして、警察も強盗団とぐるなのか。これは時間稼ぎなのでは。

 少なくともまともに捜査するつもりはないだろう。ここにいても時間の無駄だ。


「すみません。どうもまだ酔っているようです。トイレに行かせてください」

「ああ、トイレね。出て左だから。ゆっくり行ってきていいよ」

「はい、わかりました。それでは失礼します」


 俺はトイレに行くふりをして、そのまま警察署を出た。警察署の前には見知った顔の男が俺を待っていた。


「いやー。さっきぶり」

「ヤット!」

 なぜ彼がここに? ビールに薬が仕込まれていたことから、彼もグルかと疑っていたが、そうじゃないのか。

「警察じゃ相手にされなかっただろう」

「ああ、事件のことは知っているのか」

「あちこち聞いて回っていたのだろう。噂で聞いたよ」

 もっともらしい話であるが信じていいのだろうか。

「チハルちゃんは、ダフネの店に囚われている」

「え?! ダフネもグルなのか」

「ダフネが元締めだ。自分の客を襲わせて、ただで商品を手に入れようという算段だ」

 果たしてヤットの言っていることを信じていいのだろうか。もしかすると、操作の撹乱か俺を殺そうとする罠かもしれない。

「なぜそれを俺に」

「ビールを勧めてしまったからな。せめてもの罪滅ぼしさ」


 嘘かほんとかわからない。でも、手がかりも何もない。

 俺はヤットに背を向けると走り出した。酔いもかなり抜けてきたようだ。


「おい、ダフネの店はこっちだぞ」

「船に戻る!」

「ああ、そうかい」

 俺の言葉を聞いてヤットは去っていったようだ。俺は、そんなことは構わずに船に急いだ。


 船に戻ると俺はまず医務室に向かった。そこで、酔い覚ましと、魔力撹乱薬の解毒の処置をした。

 体調が戻ると、コックピットに移動して、次元魔導砲オメガをダフネの店がある街に照準を合わせて撃ち込んだ。町の機能は完全に停止してしまうだろうが、そんなことは知ったこっちゃない。これで敵は完全に無力化された。あとは急いでチハルを救出に向かうだけだ。

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