第182話 その頃ヤットは、路地裏

 あいつはいったい何者なのだろう。

 ゲートで飛ばされて来たという割には全く慌てた様子がない。突然知らない場所に飛ばされて、しかも帰れる見込みが立たないとなれば、普通は慌てふためくはずだ。そしてなんとかして戻ろうとするはず。

 それが、シリウスに知り合いが居るかもしれないから訪ねてみるときたもんだ。セクション2が孤立してから300年以上経っているのに、いったいどんな知り合いが居るというのだ。

 向こうの情報を聞いた時も、誰も本当のことを知らないのだから、なんとでも答えようがあるのだが、まるで聞かれることを想定して、予め準備しておいたような答えが返ってきた。


 それに、個人事業主だと言っている割には、旧式のハルク型を二台も繋いで、貨物船に改造してあるのかと思えばそうでもない。あれでは燃費が嵩んで儲けが出ないだろう。


 その上、セイヤという名も胡散臭い。トラペジウムといえば、セレスト皇王だけが使える幻のゲートがあると冒険者たちの間では都市伝説になっている。そのセレスト皇王の名前がセイヤだ。いかにもゲートがありますよと言っているようだ。


 実際にはシリウスからの逃亡者という可能性が高いが、それにしても、なぜゲートで飛ばされたなどと嘘をついたのだろう。


 だが、ゲートから出てきたように突然現れたのも事実だ。考えられるのはあの船に最新鋭のステルス機能だ装備されて居る可能性だ。それならば突然現れたことに辻褄が合うが、そんなものがあるとすれば軍事機密だろ。

 そうなるとシリウスからの偵察隊、もしくは、軍事機密を奪った逃亡者といったところか。

 それならばステルス機能を隠そうとするのもうなづける。


 だがそうなると、セイヤのあの常識のなさはどうしてなのだろう。シリウスが鎖国しているのを聞いた時の驚きようは、あれが演技なら相当な役者だ。

 それに、チハルちゃんのことも気になる。セイヤもそうだが彼女もアンドロイドであることを隠そうともしていない。セイヤがチハルちゃんに支配されているようには見えない。

 シリウスから来たのではないのか。


 金になる匂いがするのだが、謎が多すぎる。


「おい、ヤット、言ったとおり鱈腹飲ませてやったんだろうな」

 路地裏でたたずんでいるとガラのわるいやつらが現れ、俺に声をかけてきた。

「ああ、それはバッチリだ」

「ここの酒はシリウスのものより強いからな。シリウスから来たやつにはよく効くぜ」

「全くだな」

 セイヤには悪いがいいかもだ。正体不明だがまあ、問題ないだろう。せいぜい俺の役に立ってくれ。


「さてとそれじゃあ俺たちはこれから一仕事だ」

「まあ、失敗しないように頑張ってくれ」


「あんな優男と少女一人じゃ失敗のしようもないだろ。いざとなれば、男は殺して、女は売っぱらえばいい」

 甘く見て失敗されても困るからな。少し忠告しておくか。

「あの少女はアンドロイドだ。一筋縄ではいかないぞ」

「なに、アンドロイドだと。これは運が向いて来たじゃないか。アンドロイドは高く売れるからな。これは男には死んでもらうしかないな」


「おいおい。、殺しなんかすればさすがに当局から目をつけられるぞ」

「大丈夫だ。それにアンドロイドが売れればこんなところとはおさらばさ。ガハハハハ」

 男たちは下品に笑いながら去っていった。


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