第178話 十二神教

 教会に着くと目を丸くした神父が神殿の前に立ち俺たちを迎えてくれた。

「領主様、これはいったいどうしたことですか?!」

「此奴らが私は神の末裔ではないと言い張って、このような仕打ちを」

「それはあり得ません。領主様は神であるセイヤ様と同じ血筋を継いだ正当な神の末裔です」

「ちょっと待ってくれ、十二神教の神は神の名前を秘匿していたんじゃないのか」

「何をおっしゃっているのですか。それは300年以上前の話です。今では大神のセイヤ様の名前は明かされています」

 え、俺って大神扱いなの。いつの間に。

「そのセイヤって俺のことだと思うのだが、俺は神じゃないぞ」

「神を冒涜されるおつもりですか!」


「でも、この方天から降臨されたぞ」

「奇跡も起こしたよな」

 住民の代表が口々に先ほど見たことを喋り始めた。そんな住民を神父は嫌悪の目で見始めた。これは実際に見せた方が話が早いか。

 俺はシャトルポッドを上空に旋回させ、それでも疑わしそうにしていた神父にこれでもかと、神殿裏のカリストがあった後にできた穴に軌道上のハルクから最小限でレーザー砲撃を行った。

 最小限でもそこは灼熱地獄だ。流石にこれには神父も度肝を抜かれたようで、いつのまにか集まっていた教会周辺の住民たちも「神だ、神罰だ」と口にしていた。だから、神じゃないんだって。


「これで俺がセイヤだって信じてもらえたかな」

「おお神よ。疑ったことをお許しください」

「だから、俺はセイヤだけど神ではない。神父は自分が神だと信じる俺の言葉を疑うのか」

「セイヤ様の言葉を疑うなど滅相もありません」

「俺が神でないように、領主も神の末裔ではない。ただの人間だ」

「はい。セイヤ様の仰るとおりです」


「ということで、領主、十二神教はあんたを神の末裔だとは認めないそうだ」

「そんなのあるか!」


「実際に俺たちはただの人間だ。だがな、武力にしろ魔力にしろ権力にしろ、力を持っている者は人々から神と崇められる。しかし、その力を私欲に任せて人々を苦しめることに使うような奴はそいつは神でなく悪魔だ。悪魔は神に仇なす者だ。いつかは神罰が降るぞ」

 神父と住民たちには俺に後光が差しているように見えているのか、今にも跪いて頭を下げそうな表情で感動している。

 一方領主はまだ納得がいっていないようだ。俺は周りに聞こえないように領主に耳打ちした。

「善行を積んでおかないと死んだ後ろくな目にあわないぞ」

「死んだ後?」

「人生は死んで終わりじゃないんだ。その後がある。その後がどうなるかは、今の行い次第だ」

「今の行い次第……」

「だから、今から善行を積んでおけ」

「なぜそれを私だけに話すのだ」

「これは血縁者としての忠告というよりアドバイスだ」

 俺は領主の肩を叩いて意味深な笑顔を向けてやった。これでいくらか改心してくれればいいのだが。


 さて、悪徳領主のことはこれでいいとして、本来の目的に移ろう。

「神父、前回俺がここを離れてからの記録を見たいのだが」

「記録ですね。こちらになります」

 俺は神ではないと言っても本当は神だと思っているのだろう。神父は凄く協力的だ。俺たちは神父の案内で書庫に移動する。


「300年前ですとこの辺からになります」

「この辺からね……。ここだけやたら装丁が豪華なんだが」

 並べられた本の一角だけ妙に金がかかった煌びやかな作りになっている。

「その部分は聖女ララサメリヤ様が直接セイヤ様について書かれたものです」

 聖女が? 嫌な予感しかしない。パラパラとめくってみたが、俺がいかに神であるかが延々と綴られている。

 こんな物を読まされているから、この領主のように自分が神の末裔だと勘違いする輩が現れるのだ。

「この本は禁書にして燃やしてしまおう」

「そんな! 駄目です」

 神父が激しく抗議したため、禁書として人に見せないと約束させ、燃やすのは勘弁することにした。


 教会の資料を読み、領主の館も調べ、竜姫の話で補完した結果、リリスはセレストにいないことがわかった。

 それでどこに行ったかというと、天界に行ったとしか記録が残っていない。天界とは宇宙のことだ。

 頼みの綱の竜姫の記憶でも、宇宙船でどこかに行ったことは覚えていても行き先までは覚えていなかった。ただ、その時聖女が「ゲートを二回も通過するの! げー。私は行かない」と言ってアリアだけを連れて行ったことは覚えていた。なんともまあ無駄なことを覚えているものである。

 だが、今回はその無駄が無駄ではなかった。アリアを連れて行ったのは予想どおりだし、一番重要なのはゲートを二回通過するということだ。セレストからゲートを二回通過していく先は、どこかのセクションに限られる。可能性としては冷凍睡眠をステファに勧められて、セクション2、シリウスに向かった可能性が高いだろう。


 俺は急ぎシリウスに向かうことにした。悪徳領主の後始末? そんなのはここに暮らす人たちで決めてくれ。この国の王子だとはいえ、俺はもう300年以上前の人間だ。それに、元々引きこもりで国政などに興味もない。王族としての責任があるだろ? 悪徳領主の断罪したことで十分に果たしただろう。第一俺はもう個人事業主だ。


 ちなみに、ステファのセレスト乗っ取り疑惑であるが、ステファは俺の兄である第二王子のダレス兄さんと結婚していた。それも、嫁入りではなく婿取りという形だった。二人とも性がシリウスだったため気付きにくいが、ミドルネームがステファのAが使われるようになった。

 婿取りだった理由は、ステファが結婚後もシリウスの大使を続けるためだったようだ。ステファが嫁入りしてセレストの国民になってしまえば、シリウスの大使は続けられない。だが、婿取りならシリウスの国民のままだから、そのままシリウスの大使を続けられる。結局ステファはシリウスと行き来ができなくなった後もシリウスの大使を続けていたようだ。

 そして、王位を継だのは第一王子のアベル兄さんだったが、アベル兄さんにはひ孫ができなかった。その時点でダレス兄さんのひ孫、つまりステファのひ孫がセレストの王位につくことになった。

 この時ステファのひ孫は百人を超えていたというから、王位争いも大変であったことだろう。

 そんなわけで、今の領主一族はステファの子孫だ。ある意味ステファに乗っ取られたとも言える。ステファのせいではないが、いなくなった後にもほんとお騒がせなやつである。

 しかし、暗黒魔星に囚われていなければ、ステファのことを義姉ねえさんと呼ばなければならないところであった。300年経ってしまったのも悪いことばかりではないようだ。

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