第177話 悪徳領主
神殿のような竜姫の住まいの前に降り立つと、俺たちを遠巻きに確認するように住民たちが集まってきていた。
竜神様だとか、十二神教だとか、住民たちが騒いでいるが今は無視だ。
「おーい。竜姫様。話し合いがしたいから出てきてくれ」
「変態と話し合うことなどありません」
人型になった竜姫が柱の影から顔だけ覗かせて返事をしてきた。
「そう言わずに、悪徳領主について教えて欲しいんだが」
「それはあなたの親族のことでって、あれ?! 皇王様じゃないですか」
どうやら竜姫は俺のことを思い出してくれたようだ。柱の影から出てくると俺の所に走り寄ってきた。それと同時に住民からはどよめきがあがった。
「帝国では本当にありがとうございました。そして先程は無闇に攻撃してすみませんでした」
竜姫が俺に頭を下げて感謝の言葉と謝罪を述べた。それに合わせて住民のどよめきがより一層大きくなり、無視できなくなり住民の方に視線を向けた。その途端に辺りは静まり返った。今は、静かになってよかったとしておこう。俺は竜姫と話を続ける。
「いや、もう300年以上前の話だし、お礼は前にしてもらったよ。それに……」
「どけどけどけ。本当の神の末裔である領主様がお通りだ」
せっかく静かになったと思ったのに、別の邪魔が入ったようだ。
「ここに神が降臨されたそうだがどちらだ」
神が降臨? 空から降りてきたし俺のことだろうな。住民たちも一斉に俺を見ている。
「あなた様が神ですか。私があなた様の子孫。セレスト皇王領を治める領主のアレスAシリウスです」
「国王ではなく領主なんだ」
ふと、竜姫に言われた時から疑問に思っていたことが口をついて出てしまった。
「そうです。神であられるセレスト皇王はかつて三つの星を支配下に置き領主として君臨していたのです」
俺は支配も君臨もしてなかったはずだが。そういえば、セレストとシリウスとプロキオンを束ねてセレスト皇王領と呼ぶことにしたんだったか。
しかし、シリウスとプロキオンがあるセクション2には300年以上前から行き来できないはず。実質このセレストの支配者ということでいいのだろう。
それにしても、アレスAシリウスね。ステファはステファニアAシリウスだったはずだ。何も問題がなく継承できていればミドルネームはSが引き継がれているはずなのに、ただの偶然だよな。後で竜姫に聞いてみよう。
「それにしてもさすがですな。来て早々竜神を騙る偽神を罰せられるとは」
俺が考え込んでいたからかアレスは勝手に喋り出した。
「実は前々から困っていたのです。住民が十二神教でなく勝手に竜神を祀って、神の末裔である私に反抗的な態度を示していて」
「竜姫様は竜神なのか?」
俺は竜姫に確認してみた。
「住民たちはそう言って祀ってくれましたが、私は竜神ではないのですがね」
「それみたことか」
領主が勝ち誇ったようにそう言うと、今まで静かだった住民からは怒号が発せられる。
「ふざけるな」
「竜神様は神よ」
竜姫はなかなかの人気なようだ。このままでは領主の味方だと思われて俺まで罵声を浴びせられかねない。誤解をされる前に自分の立場をはっきり伝えておこう。
「ああ。聞いてくれ。おれは神ではないし、ここにいる領主は俺と血の繋がりがあるようだが、もちろん、彼も神の末裔ではない」
「なっ! なんということを。こいつは神の偽物だ」
「や、だから俺は神じゃないと言ってるのだが」
「えーい。やかましい。お前たちやってしまえ」
領主が命令すると兵士というには柄の悪い連中が俺に向けて銃を構えると発砲した。住民たちはパニック状態で逃げ惑っているなか、銃弾は確実に俺を捉えたと思われたが、命中の瞬間、俺が常に装着している腕輪型のシールド発生装置が作動し、銃弾を弾き飛ばした。
「チハル!」
俺はチハルに向かって親指を立てクイクイと二度引き上げる動作をした。チハルもこちらにサムアップを返してきた。それとほぼ同時に天から光の筋が射し、それが兵士の銃と腰に挿した剣を取り上げて天に持ち去っていった。
「ウオー! 奇跡だ」
住民たちは歓声をあげ、兵士たちは放心状態だ。
トラクタービームのことを知らない者にとっては奇跡にしか見えないだろう。竜姫の拘束用に予め用意しておいたものが役に立った。それにしても、武器だけ取り上げるなんてチハルの操作は神がかっているな。俺なら兵士をまとめて一塊に引き上げるのがせいぜいだ。
さて、武器を取り上げられた兵士と領主であるが、住民たちによって縛り上げられてしまった。
悪徳領主が断罪される。それはいいのだが、これでも俺の親族だし、何よりこの国の運営をどうするべきだろう。厄介ごとは勘弁願いたいのだが。
「やい、離せ、私は神の末裔なんだぞ。こんな扱いをすれば神罰が落ちるぞ」
「いや、神罰なんて落ちないから。さっきも言ったけど俺もあんたと一緒の血筋だけど神でも神の末裔でもないから」
「そんなはずはない。十二神教だって神の血筋だと認めているんだ」
「はいはい、十二神教ね。ちょうどリリスの情報も確認したかったし教会に行こうじゃないか」
俺たちはお縄になった領主と住民の代表と一緒に十二神教の教会に移動した。もちろん歴史の証人である竜姫も一緒だ。実際にその時を生きた者の証言が得られるのは貴重だ。ただ、ドラゴンがどこまで記憶しているかが未知数である。
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