悪徳領主編

第176話 セレスト

「リリスよ。俺は帰ってきた!」

 ヒアデスを逃げるように出発した俺たちは、ゲートを使ってセレストに戻ってきた。

 ゲートを抜け、目の前にセレストを確認すると万感の思いが込み上げ、思わず叫ばずにはいられない。

「おお、我が故郷セレストよ!」

「キャプテンうるさい。それにここにリリスがいるとは限らない」


 チハルに突っ込みを入れられたが、一月ぶり、いや、前回は帝国から帰ってきて地上に降りずにそのままヒアデスに行ってしまったから、セレストの土を踏むのは実に二ヶ月ぶりだ。

 体感的には二か月ぶりだが、実際には300年以上経っている。セレストも様変わりしていることだろう。

 出かける前は前世でいうところの中世時代といった感じだったから、今は近代位にはなっているだろ。ビルが立ち並ぶ都会になっているかもな。王宮はどうなっているだろう。王政でなくなっている可能性も考えておかないと。その場合どこでリリスの情報を得ればいいだろう。そうだ。教会なら300年経ってもあるだろうから王宮が駄目なら神殿に行ってみよう。

 しかし、両親も兄たちもそして聖女ももういないのだよな。アリアはリリスと一緒に冷凍睡眠している気がするが、知っている者は誰もいないのだな。それを思うと寂しくなってくるが、感傷にしたっている場合ではない。早くリリスを探さないと。リリスがいれば寂しい思いをしなくてもすむ。

 それに俺にはチハルもいるしな。あれ? 何か忘れている気が……。


「キャプテン。どうした?」

 自分の方を見て考え込んでいる俺を見て訝しそうにチハルが尋ねてきた。

「チハル、何か忘れている気がしないか」

「ヒアデスで報酬をもらっていない」

「ああ、報酬か。もったいなかったか。だけど、元々報酬をもらえると思っていなかったし、報酬はいりませんって言ってしまったからな。諦めてくれ」

「キャプテンの自由と引き換えなら仕方がない」

「うん、まあ、そうだな」

 実際にライト王がどう考えていたかわからないが、君子危うきに近寄らず、だな。魔力が無限に使える皇王の力を利用したい輩は多いだろうから。注意しないと。


 しかし、まだ何か忘れているような気もするが、それよりは早くセレストに降りることにしよう。


 俺たちはシャトルポッドに乗り地上へ降下を始めた。段々と地上の様子が見えてくると俺は自分の目を疑った。

 そこに見えるのは立派な高層ビル群など全くない。古びたレンガで建てられた家が立ち並ぶ300年前と全く変わらないセレストの風景だったからだ。

 この様子を見て、今は300年後だと言われても全く信じることができない。今までのことがチハルによるドッキリだったのではと疑いたくなる。


 高度が下がるにつれて住民の様子も確認できるようになってきた。住民もこちらに気づいたようだ。

 手を振ってみたが、こちらからは全周モニターで見えているが、向こうから俺の姿を確認することができないので手を振りかえされることはない。代わりにこちらを指差し逃げていった。300年経っても宇宙船は珍しいのか。それにしても、何も逃げなくてもいいのに。高度を下げつつ王宮を目指して飛行していくと住民が右往左往しているのが確認できる。


「キャプテン、下の建物から飛来物」

 突然チハルに警告され、下を確認すると、神殿のような建物から何かが飛んでくる。

 あんな場所に神殿などあっただろうか? いや、今はそれどころではない。敵だと認定されて攻撃されたのか。

「攻撃はミサイルか?」

「いえ、あれは……、ドラゴン!」

「なに、ブルドラが戻っていたのか」

「ブレス攻撃がくる」

「回避行動、急げ」

「了解」

 炎のブレス攻撃を避けると、ピンク色のドラゴンが目の前に迫っていた。どうやらブルドラではないようだ。セレストにブルドラ以外にもドラゴンが住んでいたのか? それとも……。

「多分あれは竜姫」

 ドラゴンの尻尾攻撃を回避しながらチハルが俺が考えていたことを先に言った。

「俺もそう思う。竜姫なら話し合いで攻撃を止めさせられるだろう」

 俺は外部スピーカーをオンにするとドラゴンに話しかけた。


「竜姫だよな。俺だセイヤだ。攻撃をやめてくれ」

「セイヤ? 誰ですか。私は竜姫ですけど、そんな人知りません」

 そういえば。あれから300年以上経っているし、ドラゴンは記憶力が悪かった。

「帝国から救ってやった、セイヤSシリウスだよ」

「シリウス! あの悪徳領主の親族ですね。また住民を苦しめるつもりですか。許しません」

 何を誤解したのか竜姫の攻撃がより一層苛烈さを増した。しかし、悪徳領主とはいったいどういうことだろ。

「チハル、一旦逃げよう」

「その必要はない。私にいい考えがある」

「そうなのか、じゃあ任せるが、アクロバット飛行はやめてくれよ」

 一応確認しておかないと、チハルだとドラゴンとレースを始めかねないからな。

「そんなことはしない。まあ、任せて」

 チハルは外部スピーカーのスイッチを再びオンにした。


「あなた裸で恥ずかしくないの!」

「え! キャー」

 竜姫は叫び声を上げると踵を返して神殿のような建物に逃げ帰っていった。


「うまくいった」

「そのようだな」

 裸が恥ずかしければ人化すればいいのに、ドラゴンの姿のまま逃げ帰ったな。


「あの神殿のような建物が住まいなのかな」

「追撃する?」

「いや、追撃でなく、降りて様子を見に行ってみよう。リリスのことを確認したいし、少し気になることを言っていた」

「危険。また攻撃される」

「そうだな。念の為オメガユニットで拘束できるように準備しておいてくれ」

 ブルドラはそれで拘束できたから竜姫にも有効だろ。

「了解。建物の前に降下する」


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