第175話 その時ライト王は、貴賓室

「陛下、すぐに捕縛させます」

「必要ない」

「よろしいのですか。このままでは皇王に逃げられてしまいますよ」

「構わん」

「ですが、貴重な魔力源をみすみす」

「構わんと言っている」

 確かに、カグラの言いたいこともわかる。

 魔力以外のエネルギーを取り入れている我が国においてもエネルギーの主力は依然魔力だ。皇王に魔力の供給をしてもらえれば、国民の生活は大幅に向上するだろう。

 だが、それは皇王が生きている間に過ぎない。皇王の子供が同じ形質を持って生まれるとは限らないのだ。そんな不安定なシステムに頼るわけにはいかない。

 何より、カイト王の遺志がそれを許さないだろう。


「あのー。お取込み中のところすみません」

「ん? なんだ」

 一人のメイドがわしの思考を遮った。失礼なメイドだな。緊急事態でもあるのか。


「私、置いてかれちゃったみたいなのですが」

 このメイドはセイヤ殿のメイドロイドではないか。

「どうしましょう?」

「何をしていた。早く追いかけろ」

「あ。はい!」

 メイドロイドは慌てて走っていった。門の衛兵のところでセイヤ殿は事情を聞かれているだろうから追いつけるだろう。

 と、思っていたがメイドロイドはすぐに戻ってきた。


「どうした忘れ物か? 私物なら後でまとめて送り届けてやる」

「いえ、ご主人様はシャトルポッドで行ってしまいました」

「なに、宮殿にシャトルポッドを乗りつけたのか」

「リモートで呼び寄せたみたいです」

「おい! 王宮の防空監視はどうなっている」

「は! すぐに確認させます」


 シャトルポッドほどの物が上空から侵入しようとすれば防空システムが稼働し、王宮内には警戒アラートが鳴り、侵入物にはレーザー光線による威嚇、それでも近付くようならレーザー砲による攻撃が行われることになる。

 それが警戒アラートすら鳴らなかった。

 セイヤ殿のシャトルポッドには高度のステルス機能が備わっているのか。


「報告します」

「シャトルポッドの件か。なぜ警戒アラートが鳴らなかった」

「それはシャトルポッドが門から正規の手続きで入ってきたからです」

「シャトルポッドが門から……。送迎車や馬車が通る門のことか」

「そのとおりです。シャトルポッドからセイヤ様を迎えに来たと告げられた衛兵が、無線でたまたまセイヤ様の側にいた衛兵に確認、セイヤ様に『こちらにまわしてください』と言われ、門を解放してシャトルポッドを通したようです」

「そうしてシャトルポッドに乗り込んだセイヤ殿たちは、また門から出ていったということだな」

「そのとおりです」


 防空システムが機能しなかった理由はわかったが、普通、送迎だからと門からシャトルポッドを通すか? セイヤ殿には超VIP待遇で対応するように通達したのが裏目に出たか。

 いずれにせよ、防衛システムの見直しと衛兵の再教育が必要だな。


「あのー。それで、私はどうすれば」

 あちゃー。とりあえず問題は片付いたと思っていたが、メイドロイドが残っていたか。


「後で送ってやるから荷物をまとめておけ」

「はい。ありがとうございます」

 メイドロイドはお礼を言って貴賓室を出ていった。


「それでは陛下、我々も通常業務に戻りましょう」

「少しは休ませてくれよカグラ」

「セイヤ様のおかげで時間が押せ押せですからね。休んでいる暇などございません。それに、後日面会の時間を設けてもよかったのに、今日会うことを決めたのは陛下ですよね。キリキリ働いてください」

「はー。わしもセイヤ殿みたいに自分の宇宙船で宇宙旅行に行きたいものだ。知っているか。カイト王は宇宙船のキャプテンになることが夢だったらしいぞ」

「はいはい、現実逃避してないで仕事仕事。執務室に行きますよ」

 カグラは仕事はできるが真面目すぎるからな。少しは息抜きにつきあってくれてもいいものを。俺は仕方なく執務室に向かうのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る