第155話 パンドラ公爵邸
囚われている竜王子を助け出すため、俺とリリスとブルドラと竜姫の四人は、パンドラ公爵邸に転送で忍び込んだ。
「無事に転送できたようだな、倉庫の中みたいだが?」
「地下倉庫ですね。あそこの棚の後ろが隠し通路の入り口になっています」
隠し通路がどこに繋がっているのかわからないが、転送により隠し通路の分をパスすることができた。ここからは、倉庫を出て、公爵邸の中を進むことになる。
倉庫を出る前に、逃げ道を確認しておこう。
「竜王子を助けたら、帰りはそこから逃げ出すようか?」
「あれ、転送で逃げないのですか? シールドを解除できれば、どこでも転送できるのですよね?」
「竜姫様、それは可能ですが、転送できるのは最大四人までですよ」
竜姫の疑問にリリスが答えてくれた。
「あ、そうでしたね。竜王子を助けたら五人になってしまいますものね……」
「そんなのは、全員倒して正面玄関から出ればいいだけだ。ガッハッハ」
「まあ、ブルドラがいればそれも可能か――」
「では、その辺は臨機応変に、ということですね」
「最悪、リリスは転送で逃げてくれ」
「逃げるなら、セイヤ様も一緒ですよ」
「そうだな。俺様を置いていって構わんぞ!」
「ブルドラ……。じゃあ、そうさせてもらうわ」
「……言い出して置いてなんだが、何か腑に落ちんな!」
「まあ、まあ、気にするな。ブルドラがそれだけ頼りになるということだ」
「そうか? まあ、俺様は最強だからな!」
「それじゃあ、行くか! 竜姫様、案内を頼みます」
「わかりました、こっちです」
俺たちは倉庫を出て、周りに注意しながら、密かに廊下を進んだ。
しばらく進んで、何度か廊下を曲がった先の部屋から、怒鳴り声が聞こえて来た。
「あそこが目的の部屋です」
「声が聞こえるが、パンドラ公爵のようだな」
見つからないように近づいて様子を窺うと、パンドラ公爵が通信機にがなりたてていた。
「いつまで待たせるきだ! 早く将軍を排除しろ‼︎」
『そう言われてもな。M4要塞は魔力切れだしな――』
「ドラゴンたちを使えばいいだろう!」
『そいつらも皆んな疲れているからな。少しは休ませないと』
「竜王子がどうなってもいいのか」
『それは困るが――、無理をして、ゴルドビッチ将軍に負けることになったら、そちらが困るのではないのか?』
「わかった、一時間だけ時間をくれてやる。その間に攻撃の準備を整えておけ」
『一時間か? 一日は準備に欲しいところだな――』
どうやら、パンドラ公爵は帝王と通信しているようだ。
帝王がうまく時間を稼いでいる。
部屋の中を見る限り、護衛はいないようだ。
竜王子は、パンドラ公爵の後ろの装置に拘束されたままだ。
これならさっさと方をつけてしまおう。
俺たちは目で合図すると、四人同時に部屋に雪崩れ込んだ。
「公爵! 動くな!!」
俺たちはパンドラ公爵に魔導銃を突きつける。
「誰だ?! 竜姫!! どうやって入って来た?!」
「動くなよ! ブルドラ、公爵を見張っていてくれ」
「俺様に任せておけ!!」
「リリスと竜姫は竜王子を助けよう」
ブルドラに公爵を監視させて置いて、俺たちは竜王子を拘束している装置から解放する。
「だれ?」
「あなたのお姉ちゃんよ」
「お姉ちゃん?」
「そうよ。一緒に逃げましょう」
「逃げる?」
とりあえず、竜王子の命に別状は無いようだが、状況を理解していないようだ。
「エウドラ! 騙されるな! そいつらもお前を攫うつもりだ!」
「お父様?」
パンドラ公爵は竜王子にエウドラと名前をつけて、自分が父親だと教えているようだ。
「竜王子、あなたはずっとパンドラ公爵に騙されていたのよ。あなたはドラゴンなの。人間のパンドラ公爵が本当の父親のはずないでしょ?」
「ドラゴン?」
竜姫が必死に語りかけるが、竜王子の反応は薄い。
そこに、ブルドラがとんでもないことを言い出した。
「竜姫、だがあいつドラゴンだぞ」
「え? パンドラ公爵がドラゴン?」
「お父様はドラゴン? 僕もドラゴン?」
「パンドラ公爵、あんたドラゴンなのか?」
「いや、私は人間だが?」
俺は困惑して公爵に確認すると、言われた公爵も当惑した様子だ。嘘をついているようには見えない。
「今まで公爵邸に来ても、直接会ったことはありませんでしたが、言われてみれば確かにドラゴンですね」
「そんなわけないだろ! 初代公爵はドラゴンだったが、それ以降は人間の養子だったはずだぞ!」
どうやら、公爵は自分のことを人間だと思っているようだ。
「あなた、いつから公爵をしています?」
竜姫がパンドラ公爵に確認する。
「いつから公爵しているかは覚えてないが、大叔父から公爵を引き継いだのは覚えているぞ!」
「本当に大叔父でした?」
「いや、引き継いだ時には、かなり歳をとっていたし、祖父ではなかったから大叔父かと……」
「大体、あなたおいくつですか?」
「私は、えーと? 何歳だっただろう? 百年以上は生きている気がするが?」
パンドラ公爵が百歳以上にはとても見えない。せいぜい四十代だ。まあ、ヒトならば、の話であるが。
「それならば、どう見てもヒトではないですよね。見た目、エルフにも見えませんが?」
エルフなら長寿であるが、耳が長いなどの見た目に違いがある。
「私はドラゴンだったのか? そんなはずは……」
パンドラ公爵は、自分がドラゴンであることを忘れていたのか? ドラゴンの記憶力って……。
「あなたが、竜王子を卵から孵したのですよね? ドラゴンの卵を孵すには、ドラゴンの魔力が必要ですよ」
「そうだ、私がエウドラを孵したんだ。私はドラゴンで、エウドラは私の子供だ!」
なんだろう、何か変な感じに記憶を思い出しているみたいだぞ。
「自分の子供だというのに、変な装置に拘束して、魔力を奪い取っているのか!」
「私の子供なんだ、何をしたって構わないだろう!」
「それは、児童虐待だ‼︎」
自分勝手なパンドラ公爵に、俺は思わず声を荒げてしまう。
「私はドラゴンだ。それぐらいいいだろう!」
「ドラゴンだって、いいわけないでしょ‼︎ ブルドラさん、やっちゃってください!」
あっ、竜姫も切れて、ブルドラをけしかけた。
「おう! 痛い目見てもらうぜ!」
「若造が!返り討ちにしてやる」
「これでも食らえ!」
「フッ。甘いな。そら、お返しだ!」
ブルドラとパンドラ公爵の肉弾戦による、どつき合いが始まった。
「セイヤ様、ここは避難した方がよいと思いますが」
「リリスの言う通りだな。転送は使えそうか?」
「はい、シールドは消滅したようです。四人までなら転送できます」
「それじゃ、竜姫と竜王子を連れて転送するぞ。ブルドラ、頑張れ」
「本当にブルドラさんを置いていくのですか?」
「竜姫、男には戦わなければならない時があるのです」
「そうなのですか?」
「では、転送します。転送!」
リリスが、スピカから預かった、折り畳み式携帯電話の様な物を取り出し、俺たち四人を転送した。
こうして、竜王子を救出した俺たちは、ブルドラを残して、転送でハルクに戻ったのだった。
その後のパンドラ公爵邸であるが、シールドが消滅したのを確認した帝王が攻撃に向かったが、到着した時には既に、ドラゴン化したブルドラとパンドラ公爵の闘いの余波により、跡形もなく消し飛んでいたそうだ。
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