第154話 竜王子救出作戦会議

 予想外なことに、竜王子を人質に取られ、帝王たちは窮地に立たされていた。


「竜王子を救出に行きたくても、シールドがあるせいで、公爵邸に侵入できないからな……」

「シールドがなければどうにかなりますか?」

 正直関わりたくなかったが、考えあぐねている帝王を見かねて俺は確認をする。


「竜王子が拘束されている場所は、以前に行ったことがあるので私がわかります」

 帝王が答える前に竜姫が話に割って入った。

 竜姫はあちこちに魔力の充填を行っていた。その時に行ったことがあるのだろう。


「それなら、シールドがなければ強襲も可能だろうが、皇王はシールドをどうにかできるのか?」

「ハルクの次元魔導砲を使えばシールドを無効化できます」


「キャプテン、ちょっと待って」

 俺が考えていた解決法を帝王に提案すると、チハルから待ったがかかった。


「どうした、チハル?」

「次元魔導砲を使うのは危険かもしれない」

「危険? なぜ?」


「竜王子は魔力供給装置に拘束されている。次元魔導砲を使うと、魔導ジェネレーターから魔力が逆流して、竜王子がダメージを負う危険性がある」


「それはまずいな……」

「竜王子を危険に晒すわけにはいかない、その案は却下だ。だが、そうなると、シールドの無効化は難しいか」


「お父様、確か、パンドラ公爵邸には秘密通路がありました。そこから侵入できないでしょうか?」

「ああ、そう言われればあったな。そこならシールドは張られていないな」


 そんな都合がいい物があるなら、ちゃんと覚えておいて欲しいものだ。

「では、それを使って侵入すればどうにかなりますか?」

「そうだな。それは侵入にかかる時間にもよるな。竜姫よ、秘密通路の侵入口はどこだ?」


「え? 私は、公爵邸内の出入り口なら知ってますが、それがどこに繋がっているかまでは知りませんよ?」

「随分と中途半端な情報だな……」

 帝王も、詳しくは知らないのか? と、いうか、忘れたんだろうな……。


「逃げ出すチャンスがないか、自分で調べたものなので、そう言われても仕方がありません。それより、お父様は詳しく知らないのですか?」

「うーむ。なにせ、昔のことだから忘れた」


 やっぱりか!

 ほんと、ドラゴンの記憶力はどうなっている。忘れたで済ませないでほしいものだな。


 なかなか良い案が出てこない。

 このまま解決策がなければ、帝王は、パンドラ公爵の要求を飲むつもりのようだ。


「キャプテン、転送信号!」

「転送信号?」

 みんな困り果てて、無言になったところに、チハルの声が響いた。


 ハルクのブリッジに光が二つ集まり、二人の人型になっていく。


「リリス!」

「セイヤ様! やっとお会いできました!」


 転送で現れた二人の内一人は、婚約者のリリスであった。リリスは俺に駆け寄るとそのまま抱きついた。


「リリス、心配かけたね。ごめん」

「いえ、二人の結婚のためだったのですよね? ですが、置いていくなんて酷いです!!」


「大公に言われていたからね。でも、ちゃんと話し合っておくべきだったね」

「そうですよ。黙って行くのはなしですよ」


「あー。リリス。そちらが皇王様か?」

「そうですよ」


 俺とリリスが再会を喜んでいると、邪魔して申し訳なさそうに、転送されてきたもう一人が声をかけてきた。


「リリス、そちらは?」

「セレストからここまで連れてきていただいた、スピカよ」


 スピカというと、彼女がスピカ神聖教の乙女巫か。


「はじめまして、スピカ様、セイヤといいます。リリスを連れて来ていただきありがとうございました」

「スピカ神聖教の乙女巫のスピカです。どうぞ、皇王様は、私のことはスピカと呼び捨てでお呼びください」


 乙女巫は、神聖教国のトップと聞いていたが、随分と腰が低いな?


「それでしたら、俺のこともセイヤと呼んでください」

「では、恐れながらセイヤ様と呼ばせていただきますね」

「いえ、様とか要らないのですが……」

「セイヤ様と呼ばせていただきますね!」

「あ、はい。どうぞ、ご自由に……」

 なぜか、強く言われてしまったので、俺は認めるしかなかった。


「ところで、この状況は、どういう状況なのでしょうか? 失礼ですが、そちらは帝王陛下ですよね?」


 俺はスピカに状況を説明した。


「成る程、とんでもない時に来てしまったのはわかりました。それでは私はリリスも無事に届けたので、これで失礼します」


「スピカ殿! 少し待たれよ!」

「何でしょう帝王陛下?」

 転送で帰ろうとしたスピカを帝王が止めた。


「我に協力してもらえぬか?」

「協力? 竜王子の救出をですか?」


「そうだ。転送なら助け出せるだろう」

「そうですね。不可能ではありませんが、シールドに覆われていると難しいですね」


「覆われていると、ということは、シールドに穴が有れば可能なのか?」

「その場合でも、その穴の周辺までですね」


「それでも、シールド内に侵入できるのだな?」

「可能ですが、一度に送れるのは四人が限界でしょうね。それも、その内の一人は、私かリリスでなくては駄目です」


「なぜリリス?」

 聞き捨てならない言葉に、俺は帝王とスピカの話に割り込む。


「それは、乙女の秘密です。テヘェ」

 スピカが、おちゃらけて誤魔化した。


 前に、チハルが転送には成功確率を操作する必要があると言っていたな。それと関係があるのか?

 リリスも成功確率を操作できるのか? リリスは魔法が得意だから、スピカに習ったのかもしれない。


 しかし、乙女巫というから、もっと堅いイメージだったが、随分とイメージと違ったな。


「ちなみに、私はそんな危険な場所、頼まれても行きませんよ」

 スピカが取り付く島もなく断ったため、帝王の視線はリリスに向く。


「え? 私? セイヤ様どうしましょう?」

 俺としては、リリスを危険な目に合わせたくないが、竜王子を助けてやりたい気持ちもある。

 魔力を無理矢理奪われているのが、他人事とは思えない。


「皇王よ、頼む。竜王子を助けてくれ。勿論、ただとは言わん」

「私からもお願いします。息子を助けてください」

「なんなら帝王の位と帝国を皇王にやろう」

「そんなめんどくさいものいりません」


「もらってしまえばいいのに? ちなみに、転送装置は私のだから、使うならそれなりの報酬はいただくわよ」

「わかっておる。スピカ殿にも報酬は払うつもりだ」


 報酬は兎も角として、帝王と王妃に頭を下げられてしまった。


「リリスいいかい?」

「セイヤ様が一緒なら、どこでも大丈夫ですよ」


「報酬については後で詰めるとして、わかりました。やってみます」

 ドラゴンパークの資料は絶望的だからな。ブルドラには悪いが、ドラゴンの角が手に入らないか、直接帝王と交渉することにしよう。


「おお、やってくれるか! となると、他の二人は……」

「私が行きますわ。道案内が必要ですよね?」

 竜姫が名乗りをあげる。


「俺様も行こう。まだ、暴れ足りない」

「ブルドラ、大丈夫なのか?」

「全然、大丈夫だ!」


「我が行ってもいいのだが……」

 帝王が王妃の方を確認するが、首を横に振られてしまった。


「では、その四人にお願いしよう」


 俺たちは急いで準備を整え、パンドラ公爵邸に転移した。


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