第153話 切り札

 将軍に帝王の伝言を伝えてから、俺は、ハルクのブリッジで地上での戦いの様子を確認していた。


 帝王からは手出しは無用と言われていたし、それでなくても戦いに参加する気はなかったので、M4要塞からハルクに移っている。


 このまま帰ってしまってもよかったのだが、依頼の報酬を受け取らないうちは帰れない。


 といっても、報酬として予定していたドラゴンパーク星の資料は、王宮と共に灰になってしまったと思われる。


 代わりに手がかりになるものが有ればいいが、無い場合は報酬はどうなってしまうのだろう?

 竜姫か帝王と再交渉の必要があるな。


 俺が思い悩んでいると、チハルから声をかけられた。


「キャプテン、公爵邸の一つにてこずっている」

「ありゃ、本当だな。シールドが復活してるじゃないか。どこから魔力を持ってきてるんだ?」


「あそこはパンドラ公爵邸ですね。だとすると少し厄介です」

「少し厄介って、何かあるのか? というか、竜姫様はなんでこっちにいるんだ」

 竜姫の依頼は完了しているので、一緒にいる必要はない。M4要塞に残っているものと思っていた。


「それは、ブルドラさんが心配でついてきたんですよねー」

 ブルドラはゲートの防衛で怪我をおって、まだ傷が癒えていないのに、又戦いに行こうとしたので、竜姫と二人で止め、ハルクに連れてきていた。


「お母様! そんなんじゃありません。私はセイヤさんと報酬の話をするために来たんです!」


 報酬の話はしなければいけないと思っていたので都合がいいが、なぜ、王妃も一緒にいる。


「あらあら。そんなに照れ隠ししなくてもいいのに」

「照れてません!」


 王妃は楽しそうに竜姫を突いている。

 今は、それどころではないと思うのだが……。


「竜姫様、それで、何が厄介なんですか?」

「あ、すみません。実は、パンドラ公爵邸には独自の魔力供給システムがある可能性があるんです」

「魔力供給システムですか?」


「私が帝都のあちこちに魔力の充填をしていたのは、話しましたよね」

「ええ、魔力のある限り、あちこちの施設や設備の魔導核へ充填することを強いられていたのですよね」


「その対象に四公爵邸もあったのですが、パンドラ公爵邸だけ、最近、その対象から外れたんです」

「つまり、竜姫が充填しなくても、自前で充填することができるようになったと?」


「そう考えるのが一番妥当かと」

「そうなると、何度シールドを破壊しても無駄ということですか……」


「シールドを再度張る前に、パルサー砲で三連射攻撃すればいい」

 そういえば、前にもチハルは、パルサー砲は三連射が基本だと言っていたな。


「それでは、お父様たちは多分納得しないと思います。自分たちの力で破壊しないと……」

「ああー。まあ、そうですね」


 そうなると確かに少し厄介だな。

 ハルクの次元魔導砲を使えば、魔力の供給源に関係なく、魔導ジェネレーターをオーバーロードさせるので、建物を壊さずシールドを無効化することができるだろうが、これ以上他国の問題に首を突っ込みたくないな。


 手出しは無用と言われているし、俺が出しゃ張ることではないよな。

 ここは自分たちでどうにかしてもらおう、と静観することにした。のだが、そうも言っていられない事態となる。


「キャプテン、M4要塞経由で竜姫に通信が入っている」

「竜姫に?」

「私にですか? どなたからでしょう?」


「パンドラ公爵」

「どうします? 繋ぎますか?」

「……ええ、お願いします」


 チハルが通信を繋いで、スクリーンに冴えないおっさんが映し出される。


「パンドラ公爵、わざわざ、私に何の用です」

『竜姫、ドラゴンたちにすぐに公爵邸への攻撃を中止させて、代わりにゴルドビッチ将軍を攻撃させろ!』


「唐突ですね。なぜ私がそれに従わなければならないのですか?」

『これを見ろ! お前の弟だ!』


「弟?!」

「竜姫、弟がいたのか?」

 俺は驚いて、竜姫に尋ねてしまった。


「いえ、弟などいないはずですが? ですが、少年が拘束されているのは、魔力の充填装置です。ドラゴンだとすれば、魔力供給システムの謎が解けます」

「多分あれは、あなたの弟で間違いないわ」

 王妃がスクリーンに映された少年を見て、そう言った。


「お母様?」

『もしかすると王妃か? なら話が早い。お前が流刑星に行く直前に産んだ玉子から孵った王子だ!』


「生まれてすぐに離されてしまったから、駄目だと思っていましたが……、無事に孵ったのですね」


 どうやらドラゴンは卵生のようだ。

 いや、今はそんなことを考えている場合ではない。

 これはつまり、人質を取られたことになる。


『わかったら早く攻撃を中止させろ。攻撃されるたびに、魔力を消費して、王子が苦しむことになるぞ』


 どうやら、拘束されている魔力の充填装置によって、無理矢理に魔力を奪われているようだ。王子が、時々苦しそうにしている。


「わかりました。攻撃を中止させます。ですから、子供に酷いことしないでください!」

『大事な魔力の供給源だからな。手荒な真似はしないさ』


 王妃は公爵との通信を切ると、帝王に攻撃を中止するように連絡した。

 帝王は攻撃を中止すると、他のドラゴンをそこに残して、ハルクにやって来た。


「王子が人質にされているとはどういうことなんだ?!」

 王妃が帝王に説明する。帝王はそれで状況を理解したようだ。


「毎度のことながら、何と卑劣な‼︎」


 ドラゴンには人質を取るという行為をする者はいないそうだ。戦闘好きのドラゴンであるが、それゆえに姑息な手段を使うことはない。


 その一方で、ドラゴンは個体数も少ないこともあってか、仲間意識がとても強い。

 それため、仲間を人質に取られると手出しができなくなってしまう。


「セイヤ様、何か弟を助け出す良い方法はありませんか?」


 いや、なくはないが、俺を巻き込まないでくれるか。

 というか、当然のように、ハルクのブリッジで対策会議を始めるのは、やめてもらいたいのだが。


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