第152話 その頃将軍は、帝都
どうやらセイヤが竜姫を連れて、M4要塞で帝王を助け出しに向かったようだ。
都合のいいことに、帝都防衛部隊が全艦セイヤたちを追いかけていった。
帝都の防衛の要であるM4要塞がないというのに、帝都を空にして、バカとしかいいようがない。
どうせ指示をだしたのは、アレクサンドラ公爵だろう。
軍事のことは何もわかっていないのに、帝国軍総司令をしている男だ。
それとも、俺に絶対の信頼を置いているのか?
俺がいれば、帝都を攻撃されても、防衛は十分だと考えているのだろうか?
使い捨ての駒ぐらいには思っているだろうから、死ぬ気で防げということか。
だがしかし、そもそも、俺が裏切ってクーデターを起こすとは考えないのだろうか?
そうだとすると、アレクサンドラ公爵は、おめでたいとしか言いようがない。
降って沸いたような又とないチャンスで、黙っているほど俺はお人好しではない。
俺はすぐさま行動に出た。
これは時間との勝負だ。急いで部下たちを集めて戦力を整える。
セイヤが帝王を助け出して戻ってくるか、帝国軍がセイヤたちを諦めて戻ってくるまでに決着をつけなければならない。
目標は四公爵を拘束、又は殺害して、帝都の実権を握ることだ。特に、アレクサンドラ公爵から帝国軍の指揮権を奪うことが重要だ。
そうすれば、帝国軍を思いのままに動かせる。
セイヤが帝王を助け出して来ても、帝国軍を動かせれば対抗できるだろう。
俺は、部下に命令して、公爵どもが逃げられないように、軌道エレベーターを押さえた。
次いで、主のいない王宮を、衛星軌道からの艦砲射撃で跡形もなく消し去った。
王宮から火の手が上がり、消し飛んだことで、住民は何が起きているか理解しただろう。帝王に、ドラゴンに脅える必要はないと。
俺は、自分の部隊で公爵邸を取り囲み、降伏勧告を行う。
しかし、公爵どもは誰も降参する気がないようだ。公爵邸にシールドを張って立て篭っている。
時間を稼げば、帝国軍が戻って来て、助かると思っているのだろう。
「将軍、どうしますか? シールドを破壊しないことには侵入できません」
公爵邸が郊外あれば王宮と同じように艦砲射撃を使えるが、あいにくと市街地のど真ん中だからな、シールドを破壊するほどの攻撃をすれば周辺に被害が及ぶ。
「時間がかかるが、地上兵器で攻撃を加え続けろ!」
「了解しました!」
パルサー砲であれば、周囲への被害を最小限に、シールドを破壊できたのだが。
パルサー砲を装備したM4要塞は、セイヤが持っていってしまった。
だが、だからこその好機なわけで、なんとも、痛し痒しといったところだ。
時間との勝負だというのに、気が急いてしまう。後何時間猶予があるだろう。
最も短い場合が、クーデターの知らせを受けて、帝国軍が竜姫を放って戻って来た場合だろうか。
その場合、緊急航行の許可が出れば、二時間弱で帝国軍の艦隊が戻って来てしまう。
もちろん、アレクサンドラ公爵と帝国軍との通信は遮断しているが、帝国軍が独自の判断で戻って来ることもあり得る。
航宙管理局に手を回し、緊急航行の許可を出さないようにしているが、それも数時間の時間稼ぎにしかならないだろう。
これ以上時間をかけられない、周りに被害が出ても、艦砲射撃でシールドを破壊するべきかもしれない。
まずは、アレクサンドラ公爵邸だけでも、先に制圧しよう。帝国軍の指揮権を奪うことが先決だ。
俺は、心を鬼にしてアレクサンドラ公爵邸に艦砲射撃の命令を出そうとしたその時だった。
空から降り注ぐ光の帯によって、目を眩まされた。
「何事だ?!」
「ビーム砲のようです。公爵邸のシールドが破壊されました」
「俺はまだ命令していないぞ。誰が先走った?!」
「それが、今の攻撃は僚艦からのものではありません!」
「味方の攻撃ではないのか? ならどこからだ?」
俺は視力が回復した目で、空を見上げる。
そこにはあるはずがないものが浮かんでいた。
「あれは、M4要塞!!」
ということは、先程の攻撃は、M4要塞のパルサー砲によるものか。
パルサー砲だったおかげで、周囲に被害はないようだが、セイヤの奴、もう戻って来たのか? 早すぎるだろう!!
でもどうやって? 流刑星に行くと見せかけて途中で引き返したのか? それとも、帝国軍がM4要塞を奪還したのか?
俺は、様々な可能性を考える。
「将軍あれを!」
「ドラゴン?!」
兵士が示す先には、ドラゴンが編隊を組んで、次々に急降下してきた。そして、そのまま公爵邸に取り付き破壊を始めた。
ドラゴンがいるということは、帝王が戻ったということだ。
クッソ! 間に合わなかったか。
しかし、そうなると、これからどうするべきだ?
「将軍、皇王から通信です!」
「セイヤからか? 継なげ!」
『ゴルドビッチ将軍か?』
「そうだ。セイヤ随分とお早いお帰りだな」
『そっちこそ、よくも大事な手がかりをふいにしてくれたな!』
「なんのことだ?」
『それは、まあいい。帝王からの伝言だ。「公爵とは我々がけりをつける。邪魔するなら潰すぞ」ということだ』
手を出すなということか、手を出さなければ敵対しないということだな。
「公爵を潰した後の体制はどうなる?」
『さあな。帝王はそこまで考えてないんじゃないか? 公爵の粛清が終わったら、自分で話し合ってくれ』
「帝王は今どこにいる?」
『目の前で公爵邸を破壊してると思うけど?』
「帝王が自ら出てるのか?」
『先頭切って飛んでいったから間違いない。まったく、戦闘好きなのにも呆れるよ』
「わかった。終わった自分で交渉する」
セイヤとの通信を切ると、それを待っていたのか、部下から報告が上がる。
「将軍、パンドラ公爵邸以外はドラゴンの攻撃を受けてほぼ壊滅状態です。ですが、パンドラ公爵邸だけ未だにシールドを張って無傷です」
「なんだって? そこだけパルサー砲の攻撃を受けてないのか?」
「いえ、攻撃を受けて、一旦は、シールドを破壊されたようですが、すぐに張り直しています。現在がドラゴンが上空を飛び回っている状態です」
どういうことだ? パンドラ公爵といえば、一番軍事関係に繋がりがない公爵じゃないか。
その公爵邸だけがなぜ無傷なんだ?
パルサー砲の攻撃を受けて、一度シールドが破壊されたということは、シールド自体が特殊というわけではないだろう。
破壊されたシールドをすぐに張り直したようだが、張り直すだけの魔力をどこに用意していたんだ?
これは、このまま事態が終息することにはなりそうもないな。まだ一波乱あれば、チャンスもあるか?
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