第150話 とっておきの案

 俺たちは、チハルが帝王に、とっておきの案を説明するものと思い、チハルが喋り出すのを待っていた。

 しかし、チハルは、一向に口を開かない。


「チハル、説明は?」

「そろそろ到着する」


 俺が痺れを切らして尋ねると、チハルは、淡々とそう答えた。説明になってないな。


「到着? ゲートを抜けて何か来るのか?」


 ゲートの向こうには、帝国軍が陣取っている。そこを抜けて来れるのだろうか?

 俺たちはゲートの出口に注目する。


「そっちじゃない。あっち」


 チハルが指さしたのは、ゲートの隣のなにもない空間だ。

 みんなが不思議に思っていると、その空間が歪みだした。そして、ゲートと同じような穴が出現した。


「ゲート?!」

「新しくゲートを作ったのか?」


 帝王は凄く驚いているが、俺は疑問に思ったがさほど驚いてはいない。

 俺は新しくゲートを開ける方法を知っているからだ。


 案の定、新しくできたゲートから、黒い球体が四つ現れた。オメガユニットだ。


「チハル、オメガユニットはセレストにあった筈だよな。どうやってここまで持ってきた?」

「見ての通り。ゲートを使った」


「それはわかるんだが、セレスト側にゲートの入口を作るのは簡単だろうけど、出口の場所をどうやって調べた?」


 新しくゲートを作って移動するということは、次元に穴を開け、ゲートの入り口を作り、そこから異次元に入り、異次元を目的地まで移動して、そこに出口用のゲート作って、異次元から通常空間に出ることになる。


 オメガユニットを使えば、次元に穴を開けてゲートを作ることは可能であるが、問題となるのは、出口の場所である。

 異次元のどこをどう通れば、目的の場所に行けるかわかっていない。


 一度通ってしまえば、異次元内の航路を確定できるので、その後は同じ場所に出られるのだが、初見で目的の場所に出られるほど、データが集まっていないはずだ。


「ハルクで次元シールド張って、次元潜行した状態で、そこにマーカーを設置。後は、オメガユニットから無人探査機を異次元に出して、マーカーを探させる。そうすれば、異次元の航路が確定し、目的地に出れる」


「なるほど、そうやってこの場所にゲートを開いたわけか」


 以前、マゼンタ教授のところに行ったとき、ゲートの研究を進めるように言っておいたが、チハルはそれを地道に進めていたようだ。


「つまり、オメガユニットとやらを使えば、新しいゲート開いて、帝国軍が待ち構えていない場所に出られるということか?」


 帝王が半信半疑といったようすで聞いてくる。


「まあ、そうですね。ここから潜って、セレストに出ることはできますよ」

「セレスト?」

「セクション4にある星です」

「セクション4か……」


 帝王は考えを巡らせている様子だ。


「出られるのはセレストだけか? アンタレスには出られないのか?」

「アンタレスに出るには、異次元での、そこまでの航路がわからないと無理です」

 俺がそう言うと、帝王はとても残念そうに「そうか……」とつぶやいた。


 しかし、そこでチハルが俺の言葉を否定した。

「航路なら既に調査済み。アンタレスに行くことも可能」

「それは本当か?」

 帝王は身を乗り出してチハルに尋ねる。

「嘘をついても仕方がない」


「チハル、いつの間に調査したんだ?」

「M4要塞を奪取した時、マーカーを設置した」


 ああ、あの時に次元シールドを使っていたな。

 その時に、裏でマーカーを設置していたのか。何とも抜け目がないことだ。


「ならば、それを使ってアンタレスに行こうではないか」

「まあ、それが一番安全で、早いでしょうね。わかりました。チハル、頼む!」

「了解、ゲートを開いて、アンタレスに向かう」


 オメガユニットで開いたゲートは、すぐ閉じてしまう。

 また、新たにオメガユニットでゲートを開いて、異次元をアンタレスに向かう。

 マーカーの反応がある場所に、再びゲートを開いて、異次元から通常空間に出る。

 そこは既にアンタレスのすぐそばであった。


「アンタレスに到着した」

「そのようだな。帰ってきたのだな……」

 帝王は懐かしそうに、スクリーン映ったアンタレスを見てつぶやいた。


「地上で戦闘が行われているようです!」

「戦闘だって?!」

 ティアが報告してスクリーンにその様子を拡大する。


「街のあちこちに煙が見えるな」

「王宮が……。王宮が跡形もなくなっています!」

 竜姫がスクリーンに映った王宮を指差し叫んだ。


「何だって?!」

 まずいな、ドラゴンパークの場所を記した資料は王宮にある筈だ。王宮が跡形も無かったら資料も無事ではすまないだろう。

 折角ここまでやってきたのに、よりにもよって、いったい何が起こっているんだ?


「公爵邸から閃光が見えます」

「あそこは、アレクサンドラ公爵の所か? 他の公爵邸はどうなっている?」

「他の公爵邸も戦闘が行われているようです」

「どうなっておるのだ?」

 帝王も事態を把握できず考え込んでいる。


 俺たちがみんな困惑していると、航宙管理局から通信が入った。


「セイヤくん。どうやって戻って来たんだい。そのゲートみたいのは何だい?」

「ウィリーさん! そんなことより、地上で戦闘が起きてるようですが?!」


「地上のことは、航宙管理局には関係ないからね。それより、セイヤくんがどうやって戻って来たかの方が関心があるんだけど……、そっちはそうもいかないだろうから、アンタレスで何が起きてるか教えてあげるけど、キリがついたら航宙管理局に出頭してね」


「航宙管理局に出頭ですか?」

「強制ではないけど、協力お願いするよ」


「……仕方ないですね。それで、地上で何が起きてるんですか?」

「端的に言えば、ゴルドビッチ将軍がクーデターを起こしたんだよ」

「クーデター?!」


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