第149話 ゲート攻防戦

 ゲートの出口を守っている、ブルドラがピンチのようだ。M4要塞にドラゴン達を全員収容した俺たちは、急ぎゲートに向かった。


「チハル、戦況はどうなっている? 俺たちがゲートに着くまで二日はかかるだろう。ドラゴンの収容は終わったから、無理そうならブルドラとハルクは撤退させても構わないぞ」

「敵の切れ目のない波状攻撃で、ブルドラが休みを取れていない。でも、あと三十分足らずで到着するから大丈夫」


「え? ゲートからここまで来るのに二日かかったよな。帰りは三十分しかからないのか?」

「来る時は航路外のため、手探りでワープ2しか出せなかった。でも、帰りは航路周りの掃除は済んでいるからワープ4まで出せる」


 ワープが1上がるごとに、速度は十倍だ。ワープが2違えば、速度は百倍、つまり、百分の一の時間で当着出来る。

 来る時に二日間、つまり、48時間かかったとすると、帰りは百分の一の約0.5時間、三十分しかかからないわけか。


「航路周りの掃除って、そんなのいつしたんだ?」

「来る時にパルサー砲でしていた」


「そういえば、無駄に発砲してたな。試射だと思っていたが、そうじゃなかったのか……」

「航行の邪魔になるゴミで試し撃ちをしていた。掃除と訓練が一緒にできて、一石二鳥」


「なるほど、航路周りの掃除ってそうやるんだ」

「普通はそんなことしない」


「え? 普通はしないのか」

「普通、一定量の航行が有れば、船が通過する衝撃波で、航路のゴミは弾き飛ばされて、常に綺麗になっている」


「今回は、船の航行が日頃行われていないから特別というわけか」

「そう。それに今回、砲撃に使える魔力は、ただで無尽蔵。普通は赤字になるから、こんなことしない」


「ああ、そうね……」


 今回は俺だけではなく、竜姫も乗っていたからね。魔力は使い放題だったろう。

 まあ、なんにしろ、早く着けることはいいことだ。

 待ってろ、ブルドラ、すぐ行くからな。


 で、本当に三十分でゲートに到着してしまった。


 到着して現状を確認すると、ゲートから出てきた帝国軍の戦艦に、ブルドラが行く手を遮るように、果敢にアタックをかけている。

 戦艦からのビーム攻撃を素早い動きで避けているが、最初に俺たちと戦った時のような切れがなくなっている。

 何発か攻撃を食らったのだろう。ブルドラの体にはいくつか怪我の痕が見られる。


 ブルドラからの攻撃はシールドで防がれてしまっているが、後続が出てこないように、ハルクと連携して、ゲートの出口で足止めすることには成功しているようだ。


 とはいえ、ブルドラが疲れているには間違いない、早めに助けた方がいいだろう。


「パルサー砲発射用意、目標帝国軍の戦艦」

「発射準備完了しました」

「発射!」


 俺は早速援護射撃を行う。

 こちらの攻撃を受け、敵艦のシールドが崩壊する。


「おお、流石パルサー砲だな。シールドを一発で破ったぞ!」

「連続攻撃しないと、また、シールドを張られてしまいますけどね」


 俺が、パルサー砲の威力に感心していると、ティアが呆れたように言ってきた。


「そうなのか?」

「敵艦を沈めようと思ったら、パルサー砲は、三連射が基本」


 チハルに確認したら、こちらは淡々と答えてくれた。


 次元魔導砲はシールドに関係なく、敵艦内部の魔導ジェネレーターをオーバーロードさせ、敵艦を無力化できるが、パルサー砲は、あくまでシールドを破壊する威力が高いだけで、それ以外は、普通のビーム砲と変わらないようだ。


 俺が聞き返している間に、敵艦はシールドを張り直すと、急いでゲートの中に逃げていった。


 敵の攻撃が止んだので、ブルドラとハルクをM4要塞に収容する。


「ブルドラ、大丈夫か?」

「俺様にとってこれくらいの傷、どうってことない。唾でもつけておけばすぐ治る」


 ブルドラはM4要塞に入ってくると、ドラゴンから人型になったが、何故か服がボロボロで血が滲んでいる。

 この服も身体の一部なのか?


「何を言ってるんですか!! そんな傷だらけで! 治療しますから服を脱ぎなさい!!」

 救急箱を持って竜姫が駆けつけて来た。


 ブルドラが渋っていると、竜姫が、ブルドラの服を無理矢理に脱がし、治療を始めた。


 服は身体の一部というわけではないのか?

 というか、竜姫は、人型なら裸でも大丈夫なのか?

 謎だ???


 ブルドラの治療が終わった時点で、俺は帝王陛下に話しかける。


「これからどうしますか? 多分、帝国軍はゲートの向こうで待ち構えていると思いますが」

「そうだな。軍がゲートの向こうにどれだけの戦力を用意してるかによるな」


 確かにその通りだ。チハルの予測では、帝国軍は帝都を動かない可能性もあった。

 ゲートの向こうの戦力が少なければ、強行突破も可能だろう。


「チハル、ゲートの向こうの戦力はわからないか?」

「それなら無人偵察機を出せばいい」

「そうか。じゃあすぐ頼むよ」

「了解した」


 ハルクから無人偵察機を飛ばして、ゲートの向こうに送り込む。


「ゲートの出口に機雷が敷設されている」

「大丈夫なのか?」


「無人機なら問題ない。M4要塞だと機雷に引っかかる」

「それは不味いな……」

 待ち伏せているとは思ったが、機雷とは厄介だな。


「向こうの様子が確認できた。スクリーン映す」

「これは!」


 送られてきた情報によると、ゲートの向こうには何千という軍艦が集まっていた。

 帝都の防衛に当たっていた部隊だけでなく、他からも集めて来たようだ。


「帝都防衛隊だけでなく、連邦方面隊や、神聖国方面隊も呼び寄せたようですね。流石に王国方面の部隊はいないようですが……」


 竜姫が艦の所属を確認する。

 王国とは戦争中だという話だ。流石にそこの戦力を減らすわけにはいかなかったのだろう。位置的にも一番遠い場所になるからな。


 しかし、これだけの規模となると、機雷をどうにかしても、簡単には突破できそうにないな。

 帝王陛下はどう考えているのだろう?


「むぬ、数が多いな。M4要塞なら突破できなくはないが、軍の被害が大きくなりすぎるな」


 帝王陛下としては、権力を取り戻した後は、自分の兵力になるわけだから、軍艦に余り被害を出したくないのだろう。


「何か被害を出さずに突破する良い案はないものかの?」

「そうですね……」


 話を振られたので少し考える。


 帝王命令で軍を引かせられないだろうか?

 軍の司令が、帝王より公爵に従っているならそれは無理だな。

 それに、帝王はここ何十年と表舞台に立っていない。簡単には帝王だと信じてもらえないか。

 判断がつかなければ、帝都に連絡を取り、公爵から偽物だと返事が来るのが落ちだろう。


 帝王陛下と数人で良ければ、ハルクで次元シールドを張り、見つからないように抜けるのは可能かもしれない。それなら機雷も影響しないだろう。


 そして、ハルクで、手薄になった帝都を落としてしまえばいい。そうすれば、帝王陛下が権力を取り戻すことができるだろう。

 後は、軍に撤退するように命令すれば、ほとんど被害を出さずに済むだろう。

 これでいけるだろうか。


 考えがまとまったので帝王陛下に伝えようと思ったら、先のタイミングでチハルが喋り出した。


「とっておきの案がある」

「ほう。とっておきとな?」


 チハルの発言は、帝王陛下の関心を引いたようだ。

 それを見てチハルは、ニヤリと笑った。

 さて、チハルのとっておきの案とは何だろう?


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