第148話 帝王

 どうやら、ドラゴンの住まいは、崖に作った洞窟のようだ。


 帝王に会うために、セキドラに連れられてやってきたのは、切り立った崖の壁面に、無数に穴が開けられている場所だった。


 穴は、奥に続く洞窟になっていて、その洞窟の一つに帝王がいるのだろう。


 案の定セキドラは俺たちを一番上の洞窟に案内した。


「お父様、お母様」

 竜姫が待ちきれずに走り出した。


『竜姫! どうしてここに?』

『無事だったのですね。よかったわ』


「お父様、お母様!」


 涙の再会になるかと思ったが、そうはならなかった。


「なんで二人とも裸なのですか! 特にお母様、女性として、恥ずかしくないのですか!!」

『そういわれてもね。ここにはドラゴンしかいないし。あれ、そちらのお方は?』


「竜姫様の依頼で助けに来た、セイヤといいます」

「キャー! セイヤ様、なんでお母様の裸を見てるんですか!!!」


 竜姫の平手打ちが、俺の頬に炸裂した。

 流石はドラゴン。人型でもヒトを遥かに超えるパワーだ。

 シールドがあるのにも関わらず、俺は洞窟の壁まで叩き飛ばされた。

 シールドのおかげで無傷だったが、シールドがなければただでは済まなかっただろう。


「キャプテン、大丈夫?」

 チハルが心配して、様子を見に来た。


『大丈夫ですか?』

 竜姫の母親のドラゴンもこちらを気にしている。


「お母様! 心配などしていないで早く人型になって!」


 竜姫の俺の扱いが酷すぎる。


 竜姫にせっつかれて、帝王と王妃が人型に姿を変える。


「先程は娘が大変失礼した」

「怪我はしていませんし、気にしないでください」


「うむ、そうか。して、セイヤといったか? 娘の依頼で助けに来てくれたそうだが」

「はい、M4要塞を持ってきていますので、全員でこの星を出られると思いますが」


「M4要塞をの……。ちなみに、娘に依頼されたのはどこまでだ?」

「皆様をこの星から助け出すまでですね。まあ、実際にはゲートを抜けないことには、現状と変わらないでしょうから、助け出したといえないかもしれませんので、ゲートを抜けるまででしょうか」


 そう、ゲートを抜けるまでだ。その先、帝都に戻ろうとも、ドラゴンパーク星に行こうとも、好きにすればいい。


「その先は好きにしろということか。では、報酬は帝国を支配することではないのだな?」

「そんな面倒なことは、ごめん被ります!」


「お父様、セイヤ様は皇王です」

「なに、本物の皇王なのか? つまり、帝国を支配したいなら、わざわざ我らを助けなくても、直接捻り潰した方が面倒がないということだな?」


 いや、そんなこと言ってないけど。


「依頼の報酬は、ドラゴンパーク星の場所を教えてもらうことなのですが」

「ドラゴンパーク星の場所だと、それを知ってどうする?!」


「うちの星のドラゴンが、嫁を探してまして。そのために、ドラゴンパーク星に連れて行こうかと」

「うむ、そうか。ドラゴンパーク星か……。確かに我らは、ドラゴンパーク星から帝都に移り住んだのだが、困ったの……。ドラゴンパーク星の場所を覚えておらん!」


 ブルドラといい、帝王といい、ドラゴンは記憶力がないのか。

 折角ここまで来たのに、全くの無駄骨か。


「そうですか……」

「いや、待て!」


 いや、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。依頼の報酬がもらえそうもないからといって、このまま置き去りにして帰ったりしませんから。


「場所は覚えていないが、ドラゴンパーク星について記した資料が帝都の王宮にあったはずだ」

「帝都の王宮ですか……」


 そうなると、帝王には、帝都の王宮に戻ってもらわなければ困ることになる。

 帝王はこれからどうするつもりでいるのだろう?


「そうだ。だから帝都に戻ったら報酬を渡す。それまで待ってもらいたい」

「それは構いませんが……」


 帝王は、はなから帝都に戻るつもりだったようだな。だがそれは、公爵と一戦交えることになるだろう。話し合いでは済まないよな?

 できれば、関わりたくないのだが、ドラゴンパーク星の場所を知るためには、帝王に勝ってもらわないと困る。

 それに、M4要塞のこともあるな。帝王が実権を取り戻せば、問題にならないだろうが。今のままだと、要塞強奪の犯罪者にされかねない。


「ところで、その嫁を探しているドラゴンは一緒ではないのか?」

「それでしたら、帝国軍が攻めてこないように、ゲートの出口で迎え撃っています。ですので、できれば早く戻りたいのですが」


「なんだと! それを先に言わんか! 加勢に行くぞ、すぐに出発だ!!」


 それからは早かった。

 フォーマルハウトをドラゴン達が一斉に飛び立ち、衛星軌道上のM4要塞に乗り込んでいった。


 この様子をステファが見たら、きっと大喜びをしたことだろう。


 俺たちもM4要塞に乗り込むと、待っていたティアに指示を出す。


「ティア、全員が乗り込み次第、ゲートに向けて出発する」

「既に出発の準備はできています。ドラゴンの乗り込みも、まもなく終了します」

「よし、終了次第出発してくれ」

「畏まりました」


「チハル、ハルクとブルドラは大丈夫か?」

「ハルクは問題ない。ブルドラは、満身創痍」

「満身創痍って、なにやってるんだ? とにかくできるだけ急ごう!」

「了解」


 俺たちは最高速度で、ゲートに向かうことにした。


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