第146話 遁走
「キャァーーー!」
目を覚ました竜姫の叫び声が、M4要塞の中央管制室に響き渡った。
何事だと辺りを警戒するが、叫び声を上げなければならないようなものは見当たらない。
「キャー、キャー、キャー」
それでも、竜姫は顔を手で覆って叫ぶのを止めない。
「どうかしましたか?」
「は、はだ、はだ」
竜姫はブルドラを指さした。
「ブルドラがどうかしましたか?」
「何で裸でいるのよ! キャー」
「え? 裸?!」
ブルドラはドラゴンの状態だ。当然服など着ていない。裸といわれればその通りなのだが、ドラゴンにとっては普通の状態ではないのだろうか?
そういえば、竜姫は、ドラゴンの状態になったことがないと将軍が言っていた。
ドラゴンの状態が裸だという認識なら、人前ではドラゴンの状態になれるわけがない。まして、女の子なら尚更に。
もしかして、竜姫が一人残されているのも、ドラゴンの状態になって反抗される心配がなかったからなのか?
おっと、今はそんなことを考えている暇はないな。
「ブルドラ、人型になってくれ。竜姫様が恥ずかしがっている」
「なんだ、俺様の体に見惚れていたのではないのか?」
「そんなわけないでしょ。この変態、露出狂!」
ブルドラは、やれやれといった感じで人型になった。
「竜姫様、申し訳ないが時間がない。竜姫様はこの要塞の管理権限を持ってないか?」
「管理権限? それがどんなものかよくわかたないけど、この要塞は元々ドラゴンの船だったから、ドラゴンである私は、なんでも自由にできるはずよ」
「そうか、なら、俺たちに管理権限を与えてくれ」
「わかったわ。あなた達三人でいいのね? コンピュータ。あー。コンピュータ。この三人に管理権限を与えて」
竜姫が天井に向けて話しかけた。
返事がないが、これでいいのだろうか?
「あの、うまくいきましたか?」
「それが、人型のままだとドラゴンであることの認証がうまくいかないみたい……」
「じゃあ、ドラゴンになって認証してもらえませんか?」
「え! ここで私に全裸になれというの。そんなことできないわ!」
「でしたら、俺たちは部屋の外に出ていますから。時間がないんですお願いします」
「でも……」
竜姫は、チラチラとブルドラの方を見ている。
「勿論、ブルドラも外に連れ出し、絶対に覗かせませんから」
「絶対に覗いたら駄目よ。絶対なんだから!」
「わかりました。絶対ですね。ほら、ブルドラ外に行くぞ」
「何故、俺様が外に出なければならないのだ。大体ドラゴンはみんな裸ではないか」
「いいから、外に出て。それじゃあ竜姫様、よろしくお願いします」
俺たちは中央官制室から外に出て、扉を閉める。
「こら! ブルドラ、覗くなよ」
「セイヤ、あれは、覗くな、覗くなと言って、本当は覗いて欲しい振りだぞ。わかってないな」
「わかってないのはお前だ。とにかく覗くな」
「はー。セイヤは堅いな。堅すぎだぞ」
ブルドラと言い合っているうちに、認証が済んだようだ。竜姫が扉を開けて顔を出した。
「終わりました」
「よし、チハルとティア任せたぞ」
「了解」
「お任せください」
チハルとティアが急いで要塞のシステムの掌握に取り組み。
「ハルクとのリンク完了。M4要塞の全てを管理下に置いた」
「大型船用の格納庫のハッチを解放します」
「ハルクを格納庫に収容」
「ハッチを閉鎖します。発進準備に移ります」
うまく要塞の乗っ取りには成功したようだ。
後は追撃を躱して、流刑星のフォーマルハウトまでうまく辿り着ければいいにだが……。
「航宙管理局に回線を繋いでくれ」
「回線を繋ぎます」
「はい、こちら航宙管理局です」
「こっちはM4要塞ですが、竜姫から要請があります」
「竜姫です。帝国でクーデターが発生し、帝王がフォーマルハウトで危険な状況です。フォーマルハウトまでの緊急航行の許可をお願いします。これは、帝国からの正式要請です」
「少しお待ちください。こちらで検討いたします」
航宙管理局のオペレーターは慌てた様子で通信を切った。
さて、なんといって、返事が返って来るだろう。
緊急航行が認められれば万々歳であるが、中立の立場の航宙管理局がその答えを出す可能性は低い。
それでも、こちらの要請が認められなければ、追撃して来る帝国軍にも緊急航行の許可は出ないだろう。
そうなれば、無補給で進める俺たちが追い付かれる心配はなくなる。
「ご主人様、発進準備完了しました」
「とりあえずゲート7に向かう。航宙管理局の許可が出次第出発するから、いつでも出られるようにしておいてくれ」
「畏まりました。いつでも発進できるようにしておきます」
「航宙管理局から通信」
「繋いで」
「やあ、セイヤくん。やっぱり何か企んでたね」
「ウィリーさん。なんでそこにいるんですか? 休暇中のわけでしょ」
「いやー。セイヤくんが何かやらかすとしたら、竜姫様が出てくるこのタイミングかなと思って待ってたんだよ」
「企むとか、やらかすとか、人聞きが悪いですね。俺は竜姫様の依頼を遂行しているだけですよ」
「依頼ねー。まあ、僕はその依頼を邪魔する気はないから安心してよ。帝王を助けに行くんだろ。今、緊急航行用に航路を空けさせてるからもう少し待ってね」
「緊急航行の許可が出たんですか?」
「ゲート7までだけどね。ゲートの先は、まだ航宙管理局の管轄外だから、そっちは自己責任でお願いね」
「ありがとうございます。助かります」
「なになに、ドラゴンの幸福度は、ヒトの千人分になるらしいからね。それに、神の幸福度は信徒の幸福度に直結するから、それこそ、何万、何千万になるかわからないからね」
「それが助けてくれる理由ですか?」
「そうだよ。それに、現状、帝国は一部の者に権力が集中し過ぎていて、帝国全体の幸福度が下がっているようだからね」
「それは帝王が復活しても変わらないかもしれませんよ」
「最初に言ったでしょ。ドラゴンの幸福度はヒトの千人分だって。だから、今より悪くなることはあり得ないんだよ」
「はぁー。そうですか……」
熱心な信者の宗教談義は聞き流すに限る。
「なんだい、その気のない返事は。折角人が協力してるんだからしっかりしてくれよ。航路の準備も整ったようだから、もう行っていいよ。帝国軍も緊急航行させろと言って来るだろうから、一時間後には許可を出すつもりだからそのつもりでね」
「一時間後ですね。助かります。それじゃあ、ありがとうございました」
俺はお礼を言って通信を切った。
「航宙管理局から、緊急航行の許可が出た。ワープ8で発進」
「ワープ8で発進します」
M4要塞は、俺と、ドラゴン二人で魔力の充填を行いながらワープ8で航行し、帝国軍の追撃を振り切り、一時間半後にはゲート7を抜けて、フォーマルハウトのあるセクション7に到着したのだった。
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