第145話 M4要塞略奪作戦

 俺は無事にA級ライセンスを取得し、アシスタントを務めるティアも用意できた。

 M4要塞への侵入方法もチハルが、当日の竜姫の予定を調べ上げ、計画してくれた。

 これで、竜姫を帝都から連れ出す準備は整った。

 後は作戦の実行を待つばかりだ。


「俺とブルドラで侵入し、護衛を竜姫から引き離し、チハル達の侵入経路を確保すればいいんだな」

「護衛など叩き潰して仕舞えばいい」

「タイミングさえ間違えなければ、殺す必要はない」

 ブルドラが物騒なことを言うが、チハルがそれを諌める。


「まあ、できる限り、無駄に死人は出したくないな」

「ご主人様は、お優しいのですね」


 ティアがメイド服姿でしなをつくり、甘い声を出す。

 ティアはアシスタント。ティアはアシスタント。ティアはアシスタント。

 よし。


「ティアはチハルと一緒にシャトルポッドで来てくれ」

「わかりました」


「デルタ、一時的に無人になるが大丈夫か」

『チハルとリンクが繋がっていれば問題ありません』


「それじゃあ、俺とブルドラは先に出るけど、俺の宇宙服は?」


 俺とブルドラは、シャトルポッドでなく、護衛に見つからないように、岩に隠れて宇宙遊泳して要塞に近付くことになっている。

 その岩も、時間と軌道を見計らって要塞に最接近するように、チハルが用意していた。


「宇宙服? なんだそれは?」


「ブルドラはドラゴンだから、そのままでも宇宙空間に出られるかもしれないが、俺はそうはいかないぞ」

「キャプテン、今時、宇宙服なんて骨董品を探すのは大変」

「え、宇宙服ってないの? でもこのままじゃ死ぬだろ」

「シールドがある」


「ああ、そうか! でも呼吸はどうするんだ? 酸素ボンベくらいないと、そんなに長く息を止めていられないぞ」

「そのためにこれがある」

「キャンディー?」

「オキシキャンディー。舐めている間は呼吸に困らない」

「ガムじゃないんだ……」


 俺はチハルからキャンディーの入った袋を受け取ると、一粒口に含んだ。

 口の中でシュワシュワしている。これが酸素なのだろう。


「納得したならさっさと行くぞ」

「お、おう」


 ブルドラにせっつかれて、エアロックから、おっかなびっくり宇宙空間に出る。

 シールドは、ちゃんと機能しているようだ。呼吸も問題ない。


 俺たちが宇宙空間に出ると、ハルクが姿を消した。俺たちが侵入経路を確保するまで、次元シールドで姿を隠しておく予定だ。


『捕まれ』


 ブルドラに捕まり、用意した岩まで連れて来てもらい、二人で岩陰に隠れる。

 後は、竜姫と護衛が予定通りにやって来るのを待つだけだ。


 時間通りに竜姫が乗るシャトルポッドがやって来た。このままいけばうまく接近できそうだ。


 だが、ここで思わぬ事態となった。

 竜姫が乗るシャトルポッドが、俺たちの隠れている岩にビーム砲を放ったのだ。


「うわ!」


 一瞬駄目かと思ったが、ビーム砲は岩を砕く程ではなく、その軌道を少し変えただけだった。

 見つかったわけではなく、接近しすぎるので、念のため軌道を逸らせただけのようだ。


「助かった。だが、これじゃあ侵入できないぞ」


 竜姫を乗せたシャトルは、要塞のシールドの一部を解除して、格納庫のハッチを開けて中に入ろうとしていた。

 今この瞬間を逃したら、要塞への侵入は不可能だ。


「どうする」


 俺がブルドラの方を確認すると、ブルドラは砲撃されたことに怒っていたようだ。


『やる気なら、相手になってやる!』


 ブルドラはドラゴンの姿に戻ると、目にも止まらぬ速さで飛び出し、シャトルポッドに向けて尾っぽの一撃を加えていた。


 ブルドラの一撃を叩き付けられたシャトルポッドは、シールドが崩壊し、要塞の格納庫の床にめり込んでひしゃげてしまった。


「おいおい、中の竜姫は大丈夫なのか?」


 岩陰に残されて、様子を窺っていると、ハルクが姿を現し、チハルとティアが乗るシャトルポッドがこちらに向かって来た。


 チハルにシャトルポッドのマニピュレーターで捕まえてもらい、そのまま要塞の格納庫へ着船した。


「ブルドラ、竜姫は無事か?」

 ブルドラはドラゴンの姿のまま、竜姫をシャトルポッドから引きずり出していた。


『気絶しているが、ドラゴンなのだ、大丈夫だろう』


 シャトルポッドの中を確認すると、一緒に乗っていた護衛の二人も気絶していた。


 さて、予定と違ったが無事に侵入はできた。後は、異変に気づいた帝国軍が来る前に、要塞の全権を掌握しなければならない。


「時間がない。竜姫は担いでいこう」

『こいつらはどうするんだ」


 護衛の二人か。途中で目を覚まされても厄介だ。だが、殺すのもな。


「キャプテン。あれに乗せて叩き出す」

 チハルが指差す方には、要塞のシャトルポッドがあった。


「よし、そうしよう。ブルドラ、頼む」

『仕方ない』


 ブルドラはヒョイと二人を掴み上げると、シャトルポッドに叩き込み、扉を閉じて、シャトルポッドを持ち上げると、外に向けて投げ捨てた。


 とりあえず護衛の二人はこれでよし。後は、全員で要塞中央部にある管制室向かう。


 元、ドラゴンの船だったということもあり、通路が広く、ブルドラがドラゴンの状態でも問題なく通ることができた。


 竜姫はブルドラが担いでいるが、俺たちはシャトルポッドに乗って進んでいく。

 要塞は巨大で走っていったのでは何十分とかかる。シャトルポッドで移動できたのは助かった。


 中央官制室に到着すると、チハルとティアが手分けをして、システムの掌握に乗り出した。


「外部リンク切断」

「シールドを張って、格納庫のハッチを閉じます」


 これで、帝国軍が来ても簡単には侵入されないだろう。


「キャプテン、ハルクとリンクが張れない」

「こちらは、攻撃システムの権限が変更できません」

 チハルとティアが揃ってトラブルを告げる。


「どうして?」

「管理者権限が必要」


「どうにかならないのか!」

「ハッキングには時間がかかります」


「時間がかかると帝国軍が来ちゃうぞ」

「俺様が出ていって、叩きのめすか?」


「竜姫なら権限を持っているはず」

「そうか。そうだな。ブルドラ、竜姫を起こせないか?」


「口付けをすればいいのか?」

「いや、そうじゃなく、普通に起こす方法はないのか?」

「口付けをするのが普通じゃないのか?」


「う、ううん」


 俺とブルドラが言い合っているうちに竜姫が目を覚ました。


「キャーーー!」


 何故か目を覚ました竜姫は叫び声を上げた。


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