第144話 A級ライセンス

 竜姫から帝都脱出と流刑星のドラゴン救出を依頼された俺は、M4要塞を操縦するためのA級ライセンスを取得すべく、ステーションにある航宙管理局に来ていた。


 そこで俺はウィリーさんに見つかり話しかけられた。


「やあ、セイヤくん、こんな所でどうしたんだい?」

「いえ、A級ライセンスを取ろうかと思いまして」

「そうかい。スキルアップはいいことだよ。それで、本当は何を企んでいるんだい」


 結局、将軍とウィリーさんには、帝王は百年前から流刑星に幽閉されていることだけを伝えた。

 竜姫からの依頼については、協力してもらえるか分からないし、そもそも、信用できるかも分からないので話していない。


「企んでるなんて人聞きの悪い。依頼を受けるのに必要だと思っただけですよ」

「A級ライセンスを必要な依頼を受けるのかい。軍艦でいえば、B級で戦艦クラス、A級だと母艦クラスだよ。傭兵を始めるのだとしても過剰じゃないかな?」

「依頼の話は守秘義務がありますから話せませんよ」

「君と僕との仲じゃないか、冷たいな」

「そんな特別な仲じゃないでしょう」


 俺は帝国をどうこうするつもりはないが、竜姫の依頼の結果次第では、帝国は大きく変わるかもしれない。

 将軍とウィリーさんがその時どうするかは、俺がでしゃばることではないだろう。


 竜姫の依頼をさっさと片付けて、帝王からドラゴンパークの場所を聞き出し、ブルドラをそこに連れて行って、竜の角を手に入れ、大公から許しをもらって、リリスと結婚する。それが俺が成さなければならないことだ。


「それより、ウィリーさんこそ何でこんな所にいるんですか?」

 ウィリーさんは航宙管理局の職員だが、職場はここではないだろう。裁判も終わって、既に職場に戻っていると思ったのだが。


「折角帝国に戻って来たから、少し実家でのんびりしようと思ってね。有給休暇の取得申請に来たんだよ」

「有給休暇ですか。羨ましいですね」

「何だい、セイヤくんは個人事業主なんだから、好きな時に休みが取れるだろうに」

「まあ、そういう見方もできますが、個人事業主の場合、休んでいたらその分収入が減りますからね。有給というところが羨ましいんですよ」

「そうなのかい?」


 その後俺はウィリーさんと分かれてライセンス講習に向かった。

 今日は、午前中に講義で午後からシミュレータだ。


 C級ライセンスを取った時には、男爵令嬢に絡まれたが、今回は絡んでくる奴もなく、平和な一日を過ごすことができた。

 と、いうか、他にA級の講習を受ける者がなく、一日中ボッチで過ごすことになった。

 講師と一対一では居眠りもできない。まあ、講義は今日だけで、明日からは、シミュレータと実技だけだが。


 実技は、受講生が俺だけなので、アシスタントがつくことになるそうだ。


 アシスタントといえば、チハルが考えた、とっておきの案とは、チハル以外のアシスタントを用意することだった。


 この依頼のためだけに、大金を出してアシスタントを買うことはできないと言うと、アシスタントをただで手に入れる方法を提案してきた。


 その方法とは、俺たちを襲った、メイドのアンドロイドを、事件の謝罪として引き渡すように要求することだった。


 メイドのアンドロイドでは、アシスタントはできないだろうと思ったが、汎用型のアンドロイドだったため、仕様を初期化されている今なら、アシスタント機能をインストールすることが可能ということだった。


 しかし、俺たちを襲ったアンドロイドを仲間にするのはどうかと思ったが、初期化されて何も覚えていないのだから、その辺は割り切った方がいいのだろう。


 今日の講習が終わってハルクに戻ってみると、件のアンドロイドは既に到着していて、チハルと話し込んでいた。


「ただいま」

「キャプテン、お帰り」

「お帰りなさいませ、ご主人様」


 メイド服姿のアンドロイドが立ち上がって俺に挨拶をした。


「何でメイド服なんだ。アシスタントなんだよな?」

「アシスタント機能はちゃんとインストールされている。服装はなんでも関係ない」

「そうなのか。だが、チハル、俺のことをご主人様と呼んだぞ」


 チハルは俺のことをキャプテンと呼ぶ。アシスタントならキャプテンと呼ぶものではないのだろうか? ご主人様と呼ぶなんて、まるでメイドではないか。


「別に呼び方に決まりはない」

「ご主人様ではお気に召しませんか、ご主人様」

「いや、別にそれで問題ない!」


 メイドアンドロイド。いい。


 おっと、これはリリスになんといえばいいのだろう。

 リリスとは、チハルの時も揉めることになった。少し困った事態になったかもしれない。


「そういえば名前はなんだったけか?」

「初期化されてしまったので名前はまだありません。できればご主人様に付けていただきたいのですが。駄目でしょうか……」


 メイド服の少女が上目遣いにこちらを見てくる。うっ、あざとい。


「そうだな。ガラティアでどうだろう。呼び名はティアで」

「正式名称ガラティア、呼称ティアですね。ありがとうございます。ご主人様。これからは身の回りの世話はティアにお任せくださいね」


「いや、ティアにはアシスタントをしてもらうから、身の回りのことは自分でするからいいぞ」

「勿論、アシスタントとしてもしっかり働きますから。ご主人様の身の回りの世話もティアにやらせてください」

「まあ、アシスタントとしての仕事に支障がなければ……」

「はい。お任せください。がんばります」


 これは、初期化前の仕様を引きずっているのだろうか?


 次ぐ日の講習から、ティアも連れて行くことにした。実習用のアシスタントは航宙管理局で用意してくれることになっていたが、持ち込むことも可能だった。

 ティアの性能を予め確かめて、慣れておくためにも、その方が良いだろうと考えてのことだ。

 ぶっつけ本番で使えなかったら、目も当てられない。


 ただ、ティアを連れて航宙管理局を歩くと目立つことこの上ない。

 なにせ、ティアは外出時もずっとメイド服なのだから。


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