第143話 救出依頼

 通された別室で竜姫の謝罪を受けた後、帝王の救出を依頼された。

 将軍の話では、帝国は帝王が牛耳っているとのことだったが、これはいったいどういうことだろう。

 竜姫が嘘をついているようにもみえないし、詳しい話を聞かないことにはなんとも判断がつけられない。


「実は、今の帝国を支配しているのは四公爵なのです。私以外の王族は全員、流刑星であるフォーマルハウトに閉じ込められているのです。私は家族を人質に取られ、仕方なく公爵の指示に従っているのです」


「流刑星? フォーマルハウトって?」

「セクション7にあるといわれている。セクション7は未開発で行く者は誰もいない」


 チハルの説明を聞く限り、流刑星といわれるのも納得である。

 他に訪れる者がいなければ、宇宙船がなければ逃げ出すことができない。

 それに、セクション7ということはゲートの向こうということだ。

 ドラゴンなので自力で宇宙空間を飛べたとしても、ゲートを通過するのは無理だろう。


「でもなぜ流刑星なんかに?」

「お父様は流刑星に視察に行って、公爵に騙されて置き去りにされてしまったようです。お父様を人質に取られた形になり、仲間のドラゴンも次々に流刑星に送られてしまいました。今、この星にいるのは私だけです」


「それは最近の話なのですか?」

「いえ、お父様が流刑星に置き去りにされてから、既に百年近くになります」


「そんなに前から帝国は四公爵が支配していたのですか……。しかし、それなら、なぜ四公爵は帝王を廃して自ら頂点に立たないのですか?」

「ドラゴンである帝王が支配していると民衆に思わせておいた方が、公爵には都合がよかったのでしょう。批判の矛先を帝王に向けられますから」


 将軍が帝王を批判していることから、それはうまくいっているようだ。


「それに、ドラゴンの魔力が必要だからというのもあるでしょう」

「ドラゴンの魔力?」

「ドラゴンの魔力はヒトと比べようもないほど膨大です。その魔力を使って、帝国のあちこちの施設が動いています」


「つまり、竜姫があちこちの施設に魔力を充填しているのですか!」

「そうです。私の魔力が続く限り充填を強いられているのです」

「それは酷いですね。それで竜姫様は残されたのですね」

 俺自身も魔力が高いので、魔力を搾り取られている竜姫のことが他人事とは思えない。


「どうかお願いします。私たちドラゴンを四公爵から救ってください」

「そういうことなら、俺様がそいつらを叩きのめしてやろう」


「ブルドラ、いきなり戦争を吹っかけるようなことはやめてくれよ」

「ならどうするつもりだ。同族が虐げられているのに見て見ぬふりはできぬぞ」


「はぁー。仕方がないな。竜姫の依頼を受けるよ。どのみちドラゴンパークの場所を知るには、帝王に会いに行かなければならないわけだし」

「よかった。よろしくお願いします」


 竜姫は安堵の表情を見せる。しかし、それは一瞬のことで、すぐに顔を引き締めて話を続けた。


「ただ、問題がないわけではありません」

「問題というと?」

「いくつかありますが、第一に私がこの星を抜け出すのが難しいということです。軌道エレベーターでは必ずチェックされますし、帝都は飛行禁止です。

 第二に、仮にステーションまで上がれたとしても、そこで見つかって仕舞えば、M4要塞の警戒網を抜けるのは不可能ですし、しばらく見つからないで済んだとしても、艦隊が追跡してくることになります」


「竜姫を連れ出すのは至難の技ですね。竜姫は残って、帝王を助け出してくるのでは駄目なのでしょうか?」

「その場合、私が人質に取られてしまいます」


「折角帝王を助け出して来ても、それでは意味がなくなってしまいますね」

「面倒くさいから四公爵を潰してしまっては駄目なのか?」


「ブルドラ、暴力による解決は最終手段だ」

「つまらんな」


「続けてよろしいですか。第三の問題点は、流刑星にいるドラゴンを全員一度に助け出さなければ、また人質に取られてしまうということです」


「その流刑星にはどのくらいドラゴンがいるのですか? 俺の船の定員は十二名ですから、流刑星から連れ出せるのは一回に最大八名までですよ」


「そうですね。確か流刑星には数十名のドラゴンがいるはずです」

「そうなると、大型旅客船でも持ってこないと一度には助け出せませんね。もしくは、人質に取られないだけの戦力を用意するかですが……」


 なかなか難問が多いな。


「ですが、この問題を一度に解決する方法があります」

「そんな方法があるのですか?!」


 そんな方法があるなら最初から教えてもらいたかった。


「実は、来週M4要塞に魔力を充填に行く予定が入っています」

「それなら、第一の問題点はクリアできますね」


 わざわざ隠れて抜け出さなくても、正規の手段でステーションまで来られるわけだ。

 だが、その場合、厳重な護衛もつくだろうし、見つからずにM4要塞の警戒網を抜けるのは無理だろう。

 いや、ハルクなら次元シールドで姿を隠せば見つからずに抜け出せるか。


 突破方法を考えていたら、竜姫がとんでもないことを言い出した。


「その時にM4要塞を乗っ取ってしまおうと思うのです」

「え? 要塞を乗っ取るのですか!」


「はい、M4要塞は元々ドラゴンが帝都にやって来た時に乗っていた船を改修した物なのです。数十名のドラゴンを余裕で乗せられますし、艦隊に追撃されても撃退できます」


「要塞ですからそうかもしれませんが、どうやって乗っ取るのです?」

「M4要塞は通常リモート操縦されているためヒトは乗っていません。ですが、中に乗って操縦することもできるので、中に入って仕舞えば乗っ取りは簡単です」


「そうですか、ですが乗っ取れたとして、誰が操縦して流刑星まで行くのですか?」

「私は宇宙船の操縦などできませんから、それを皇王様にお願いしたいのです。宇宙船を使った個人事業主なのですよね」


「確かにそうですが、俺の持っているのはC級ライセンスですから、要塞なんか操縦できませんよ」

「宇宙船なんて、どれも一緒じゃないんですか?」


「いえ、クラスごとにライセンスが分かれています。あの要塞ならA級ライセンスが必要でしょうね」

「それでは誰が操縦するのです?」


「それは俺が聞きたいのですが……」


 俺も竜姫も困り果てていると、チハルが声をあげた。

「キャプテンがA級ライセンスを取ればいい」

「今からか?」

「キャプテンは、既にC級を持っているから、一週間もかからない」

「そうなのか。でもな……」

 ハッキリ言ってしまえば面倒くさい。


「どうかお願いします」

 竜姫に頭を下げられてしまった。


「でも、ライセンスを持っているのが俺一人ではまずいだろ。チハルはハルク専用のアシスタントだから、他の船のアシストは無理だよな」


「操縦自体はハルクとの間にリンクが張れれば問題ない。でも、法律的には無理」

「そうなのか?」

 要塞を乗っ取ろうとしているのに、今更、法律違反を気にするのもどうかと思うが、チハルが無理と言ったら無理だろう。


「でも、解決策はある」

「では、それでいきましょう」

 チハルの言葉に、竜姫が嬉しそうに手を叩いた。


「いや、まだどんな解決策か聞いてみない事には判断できないからね」

「大丈夫、とっておきの案」

「だそうですよ」


 本当に大丈夫なのか?


 それにこの話、将軍とウィリーさんにはどう伝えるべきだろう。


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